役者の世界で生きる石坂浩二(79)と野球界で生きる小谷正勝(75)。対談の最終回は「スター論」。(敬称略)

ポーズを決める小谷正勝氏(左)と石坂浩二
ポーズを決める小谷正勝氏(左)と石坂浩二

小谷 野球選手と俳優さんの共通点があると思うんですが、どうですか。

石坂 芝居に入るコツがあるんですね。「役に入ってください」と言われてスッとやる。このスッていうのがピッチャーが投げ始める心構えとか、バッターが打席に入る時とすごく似てますね。

小谷 僕なんかも、マウンドに上がるとスイッチが切り替わった。

石坂 うまく乗ってる時って、ヒットを打っちゃうと思うんです。スッと入るのがすごくうまかったのはイチロー。ものすごく役者っぽい人だと感じた。

小谷 俳優さんは、全然違う役をちゃんとこなされるのがすごいなと。本人になりきるわけですか。

石坂 脚本に書いてある通りにやればそれになるはずなんです。脚本がダメな場合はいくら頑張ってもダメですね。

小谷 野球も監督がバカだったら、何もならないです。

石坂 野球で言えば、日本の監督とアメリカの監督で違うのはやっぱりファンを喜ばせるかどうか。ここでこうしたら喜ぶだろうとかサービス精神というか遊びがなさ過ぎます。

小谷 勝とうとしか考えないですから。日本は。

石坂 面白くするにはというのがないと、やっぱりお客さんは見にいかなくなりますよ。

小谷 僕は、アマチュアの人がやれないことを簡単にできるのがプロだと思うんです。あんな選手になりたいと思われるのが、本当のプロだと。俳優さんもそういう感覚ですか。

石坂 役者は、結局どんなことをしても最終的に自分からは逃げられないんです。自分から外に出られないんです。役になりきったというのは、リップサービスもありますよね。

小谷 ルーティンなどはありますか。

石坂 あるんですけど、すごい短いです。あんまり長いルーティンって効かないの。もう2、3秒でいいんです。いくぞって時に左足から現場に入る。

小谷 どうして左足なんですか?

石坂 利き足だからですかね。いろんなことやってみたんですけど、短くても大丈夫って自信が出てくる。セリフが心配とかいろんな人がいるけど、そこで心配してたら終わり。だから、考えないです。この世界との境界線を越える1歩のつもりでね。

小谷 今の巨人でいえば坂本なんかはスター候補なんですけど、長嶋さんとは雰囲気が違います。

石坂 長嶋さんは、1から10まで演技だと思うんですよ。

小谷 自分がどうすればお客さんが喜ぶかというのが分かってるんですね。

石坂 そこがスターだと思います。家帰ってから、どんな人か想像できないですからね。

小谷 今の野球界にはいるでしょうか?

石坂 はっきり言って、いませんね。坂本君にも長嶋さんの全試合のフィルムを見てほしいですね。守ってる時に誰かが見てるって思ってるんですよ。「俺しか見てない、王なんて見るわけねぇ」みたいなね。そこがすごいじゃないですか。だから、本当に意味なく動くんです。坂本君を見てると合理的に見えます。

小谷 芸能界のスターと言えばどなたですか。

石坂 美空ひばりさんですね。美空さんは100%自分のこと知ってたと思うんですよね。自分のことを100%知ってたら、怖くないんですよ。野球選手も本当に自分を知ってたら、それこそ自分が不調の時にこうとか。イチローも自分で切り替えて、いろんなことをやってたと聞きます。トーク番組とかでもしっかりしゃべるようになったし、やっぱりスターです。

小谷 最後に、今の野球界に求めることはありますか?

石坂 周りの人がもっと野球を愛さないと。グッズ作りとか、余分なものに力を入れすぎてますね。本当に野球が好きか疑うことがあります。それでは選手がかわいそう。選手は絶対に野球が好きですから。

小谷 石坂さんの言葉を聞いて、思うことがある人はたくさんいると思います。貴重なお時間をありがとうございました。

【取材・構成=久保賢吾】(この項おわり、次回は12月下旬掲載の予定です)