11年夏、創部10年目で甲子園に初出場した高崎健康福祉大高崎は、昨年までに春夏で通算6度の甲子園出場を達成した。インパクトある“機動破壊”の言葉とともに、健大高崎の名は全国に浸透。それでも、創部から監督を務める青柳博文は「毎年、甲子園に行って、勝てるチームを作りたいんです」と言った後、世界的企業の育成システムを例に挙げた。

青柳 マクドナルドのハンバーガーは、全国どこでも、ほぼ同じ味じゃないですか。それは、しっかりとマニュアルがあるから。同じように、どの代でもコンスタントに勝てるような形を作っていきたいです。

将来的には、監督を交代する時期が訪れる。青柳は実績を残した監督が退いた後、低迷期を迎える流れに疑問を呈する。その打開策として、監督のワンマンチームではなく、勝てる組織作りを重要視した。

青柳 監督がいないから、勝てなかったでは選手がかわいそう。だから、組織をしっかり作って、誰が監督をやっても、同じ野球ができるようにするのが理想なんです。

青柳は、指導の中で「公正・公平」を大切にする。レギュラーを決める上で取り組む姿勢、過程や結果を重要視するが、同校では5年ほど前から、メジャーリーグで浸透するデータ指標「セイバーメトリクス」を導入した。日本では「打率、打点、本塁打」などに目が行きがちだが、青柳は細分化されたデータを参考にメンバーを構成する。

打率3割の打者を例に、「セイバーメトリクス」の有効性を示す。10打数3安打と仮定した時、(1)「単打・単打・単打」、(2)「本塁打・二塁打・三塁打」、(3)「単打・四球・二塁打・単打」も打率3割。だが、得点との相関性が高いとされるOPS(出塁率+長打率)を見れば、(2)→(3)→(1)の順で評価され、貢献度の差は明らかである。

12月末に行われる沖縄キャンプでは、A、Bチーム全試合の「セイバーメトリクス」を含む約150ページの成績集を配布し、全体ミーティングを実施する。データを参考に約3~4時間ミーティングが行われ、各選手の能力分析、課題を具体的にする。コーチの葛原美峰が専門家で、門外不出と書かれた資料は保護者も目を通す。

青柳 人間なので、選手のイメージであったり、「この選手は打つだろう」と主観も入ります。でも、数字は正直でウソをつきませんから、周囲も納得しますし、起用や采配にも公平な形で生かせるんです。

一般的に数字と聞けば人間味がなく、非情にも聞こえる。だが、具体的に示すから、公平性が保たれ、選手の競争意識もかき立てられる。控え選手なら「レギュラーと比べ、何が足りないのか」が分かる。プレーが目立ちにくく、主観的判断では評価されにくかった選手にも光が当たる。

青柳自身、東北福祉大卒業後の7年間は会社員だった。総務、人事などを中心に営業も経験した。数字と闘った過去があるから、社会における数字の持つ意味も理解する。

青柳 高校野球は教育があって、次に勝負や結果だと思っています。将来的に野球だけで生活する選手はごくわずか。いろんな経験をして、社会で生かしてほしいんです。

独自のチーム戦略は投手陣の起用法にも表れる。青柳は、複数の投手による継投を重要視し、投手リレーを「駅伝」に例える。「各自が任されたイニング(区間)で持ち味を出して、たすきをつないでいく意識。その中でしっかりルールを決めてやっています」。継投を推奨する理由、投手交代のタイミングもまた、確固たる理念とデータによるものだった。(敬称略=つづく)

【久保賢吾】

(2018年3月11日付本紙掲載 年齢、肩書などは掲載時)