元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。37回目は「WBCの失点率決着が真剣勝負に水を差す?」です。

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 侍ジャパンが連夜の死闘を制しWBC2次ラウンドE組で2連勝、プレーオフ(以下PO)進出の権利は獲得した。とはいえPOで敗れれば敗退の可能性はゼロではないだけに今夜のイスラエル戦も気が抜けない。

 侍ジャパンの準決勝への行方は以下の3パターンとなる。

(1)日本がイスラエルに勝利 

 日本が3勝無敗、E組1位で準決勝進出。

(2)日本負け、オランダ負け

 日本とイスラエルが2勝1敗となり、両チームが準決勝へ進出。直接対決で勝ったイスラエルが1位、日本は2位進出。

(3)日本負け、オランダ勝ち

 日本、オランダ、イスラエルの3チームが2勝1敗となり、当該チーム同士の失点率(失点÷守備イニング)で順位を決める。失点率で1位のチームは準決勝進出が決まり、2位と3位のチームは16日にプレーオフを行う。オランダはすでに両チームとの対戦を終了し失点率0・53。日本-イスラエル戦が9回で決着した場合、イスラエルは完封勝ちしてもオランダの失点率を上回ることができない。

 日本は4失点以下の敗戦ならば失点率0・50以下で、オランダを抜いて失点率が1位となり、E組1位で準決勝進出が決まる。

 日本が5失点以上で敗れたケース(5失点で失点率0・55)は、失点率トップのオランダがE組1位で、日本の準決勝進出はイスラエルとのプレーオフに勝つことが条件となる。

 先日、メキシコが1次ラウンドD組内での失点率に泣いた。

 同組3連勝1位抜けのプエルトリコは2次ラウンド進出。2位は1勝2敗で3チームが並んだ。この場合、まず当該3チーム間の失点率(失点÷守備イニング)で決める。失点率はイタリア1・05、ベネズエラ1・11、メキシコ1・12のため最下位のメキシコが脱落。プレーオフではベネズエラがイタリアを下し2次R進出となった。

 この「失点率」決着はやっかいだ。

 例えば、9回1点取って勝利を決められる場面でも失点率で負けそうな場合、あえて9回で1点を取らず、延長戦に持ちこむ。

 また、1試合9回で完封しても失点率で上回れず「10回0封」にしないといけない場合。9回完封で勝ったとしても、失点率でラウンド敗退が決まるのため、試合開始から攻撃では「無気力プレー」で故意にアウトになり点数を取りに行かない。0点をボードに重ねて延長に持ち込もうする戦法を取るチームが出ないとも限らない。「失点率」決着は今のところ表面化していないが、WBCルールの盲点?ではないのだろうか。

 ドミニカ共和国、米国、プエルトリコ、ベネズエラで戦う2次ラウンドF組は激アツだ。1か国が3勝、ほか1勝2敗横並びというケースも十分あり得る。まさか、とは思うが「点取らず延長作戦」があるかも知れない。

 今大会では、侍ジャパンの激闘しかり、各ラウンドで盛り上がっているように映るが、ルールの盲点を突いた“無気力プレー”があったとすれば、私だけじゃなくファンも興ざめだと思う。

 取り越し苦労かも知れない。しかし、真剣勝負に水を差すようなルールの盲点が見え隠れする限り、改善を次回の課題にしてほしい。得失点差ルールなら分かりやすいと思うのだが。

 ちなみに侍ジャパンが世界一に輝いたWBC第1回大会の第2ラウンド最終戦では米国がメキシコに1-2で敗れる波乱が起きた。世間は韓国、米国の決勝R進出を予想していたようだが、実際は韓国3勝、日本、米国、メキシコは1勝2敗で並び「失点率」で侍ジャパンが米国を上回って同組2位に浮上。あのボブ・デービッドソン審判員の“世紀の誤審”によるタッチアップ判定が響いたラウンドで日本が「奇跡の決勝R進出」を果たしたことも付け加えておく。

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)