済美(愛媛)の4番池内優一内野手(3年)はプレーを断念した友に白星を届けた。夏の甲子園、第100回記念大会の開幕日に済美は登場した。池内は初回にセンターへの犠飛でチームに先制点をもたらした。「バットにボールを乗せる意識だった。あの1点があったから、逆転されても焦りはなかった」。ここから4回まで5点を奪い、逃げ切り勝ちにつながった。

 昨秋から、池内は夜間の自主練習でバットを振り続けた。付き合ってくれたのが、記録員の向井太陽(3年)だ。遅い時は夜11時まで打撃投手として、約200球を投げ、「お前が打たな勝てん」と励まされた。

 向井は遺伝性の色覚障害を持っている。緑色が茶色に見えたり、グラウンドの白線や雲とかぶると、白いボールが見えなくなる。新チームになり、遅い時間のノックに参加することが増えると、暗い中ではますますボールが見えづらくなることに気付いた。昨秋は背番号「3」をつけたが、県大会準決勝でボールを後逸。記録はヒットだったが、失点につながった。「このチームで甲子園を狙いたかった。自分のエラーでみんなが泣くのは嫌だった」。小学3年から続けたプレーを諦め、昨年11月にマネジャーに転向した。

 今夏の県大会直前、キャプテンの池内は、中矢太監督(44)から「お前を4番でいく」と言われていた。そこで池内は向井にある約束をした。「お前が言ったように、俺が目の前でホームラン打つから」。迎えた決勝戦。宣言通り池内は向井の目の前で、6回に3ランを放った。大きな放物線を描いた打球。ボールは雲と同化し見えづらくなったが、耳に入った大きな歓声で、向井はそのボールがスタンドインしたのだ分かった。「涙が出そうだった」と向井は自分のことのように喜んだ。

 「まずは1勝おめでとう!」。試合後に向井は池内にそう声をかけた。「いいところで打ってくれた。あいつのためになってくれたならよかった」。チームは2年連続の初戦突破を果たした。2人の夢はまだ続く。【磯綾乃】