10年ぶりの出場となった近大付(南大阪)が7日、夏の高校野球1回戦で前橋育英に0-2で敗れ、93年夏以来の初戦突破を逃した。

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 近大付の寺林千恵子部長は、ベンチ裏で涙を流すナインをそっと見つめていた。10年ぶりの甲子園は1時間37分で幕を閉じた。「1年生の時から比べると、3年生は強くなった。みんなで支え合ってやってきた。いいチームになったと思う」。16年に部長を兼任していた岡崎忠秀校長が急死。その夏に、副部長の立場から、部長代理となった。当時1年生だったメンバーが最後の夏を終えた。

 寺林部長は寮の管理も行い、週に4日は宿泊する。女子サッカーの旭国際バニーズ(現バニーズ京都SC)でゴールキーパーとしてプレー。自身の経験も踏まえ、体調管理の重要性を選手に説く。話しやすい空気を作り、寮生活をサポートしている。大事にしてきたのは、寮内のトイレ掃除だ。毎日15分、日曜日は1時間の大掃除。部員と一緒に取り組んできた。「当たり前のことを当たり前に。それは常々、言っている。あいさつや立ち居振る舞い。掃除に関しては、結構うるさいんです。私も一緒になってやる。徹底力ですね」。

 7月の南大阪大会前には、こんなことがあった。トイレ掃除の出来が悪かった。「原点に戻らなあかん」。冗談まじりに、主将の花田、副寮長の山中と西山に声をかけた。大会中に、寺林部長と4人で2カ所ある共同トイレを掃除することになった。勝ち進む中で、花田が言った。「トイレ掃除したら、ヒットが出ます」。寺林部長は返した。「優勝するまでやらなあかんな」。南大阪大会を10年ぶりに制す。その後、甲子園の宿舎入りするまでトイレ掃除をやめなかった。外野を守る山中はしみじみと言った。「便座の裏は汚れがひどくて、磨くのが大変なんです。でもトイレの神様は見てくれているんですね」。

 この日出場した花田と山中はともにノーヒットだった。トイレの神様は、どこに行ったのだろうか。寺林部長は思いやった。「自分がやらなければという気持ちがどこかに出ていたのでしょう。そこが甲子園ですね」。

 試合後、寺林部長の話を振ると、花田は顔を少しゆがめた。「先生は日常生活をイチから見直してくれた。心のスキがなくなって、成長できたと思う。でも、ふがいない結果に終わり、悔しいです」。こぼれ落ちそうなものを堪えているように見えた。この日の悔しさは今後の人生にとって、いい経験になる。それもトイレの神様が与えたものだ。【田口真一郎】