7月13日、101回目の夏の甲子園を目指す岡山大会が始まった。開幕試合はおかやま山陽-岡山学芸館。17年夏、18年春に2季連続の甲子園出場を果たしたおかやま山陽は、逆転サヨナラ負けを喫し、初戦で姿を消した。

おかやま山陽を率いるのは堤尚彦監督(47)。青年海外協力隊で訪れた縁から、ジンバブエ代表監督を兼任し、今年5月に行われた東京五輪予選に参加した。アフリカ予選3位で出場はならなかったが、普及に力を尽くした。

その異色の背中を、近くで見てきた選手がいる。堤監督の息子、おかやま山陽・堤尚虎(たかとら)捕手(3年)だ。「小さい頃家で見てきたのは、面白くてユーモアがある姿。野球をしている姿を見たり、指導をしているところを見るとすごいなと思います」。

父が率いるチームを目指すつもりはなかった。「最初は来る気はなかったです。やりにくいと思いましたし」。勧められてオープンスクールを訪れると、一気に気持ちが変わった。バリエーション豊富な練習に、想像とは違う楽しい雰囲気。甲子園を目指すなら、ここだと思った。進学を決めたことを堤監督に告げると「立場もあるし、難しいぞ」と言われた。「周りがどう見るか分からないけど、自分は特別という思いは持たない。1選手としてやるべきことをやる」。覚悟は決まっていた。

高校最後の夏、ベンチ入りはかなわなかった。チームのため出来ることをと、岡山大会開幕の2週間前から学生コーチに専念した。ビデオを見て相手投手のクセを探し、チームの勝利のために練習を手伝った。

かけがえのない経験を積んだ2年半。高校2年生の冬休みを利用して約2週間、ジンバブエを訪れた。日本から約30時間の道のりを経て、ジンバブエ代表強化合宿に合流した。ともに練習しながらさまざまなことに驚き、学んだ。使用できるボールは約30球。なかには表面の糸が全部ほどけているものもあった。日本での普段の練習なら、多い日で約500球のボールを使用する。道具1つの大切さを知った。

英語ができない不安もあった。空港までは父の現地の友人が迎えに来てくれたが、最初は車の中での会話が全く理解出来なかった。「野球を通じてコミュニケーションが取れました。表情とか目で思ってることを教えたり。単語をどうにか組み合わせて身ぶり手ぶりで伝えたり」。言葉がなくても、スポーツを通して気持ちが通じ合えた。

卒業後は大学に行き、将来の夢は野球の指導者になることだ。「アフリカに行って、その経験が生きていると思います」。高校で広がった視野は、夢への大きな財産になったはずだ。【磯綾乃】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)