10月上旬に「ドラフト会議倶楽部」の模擬ドラフトを潜入取材した。一般ファンが各球団の担当者役になり、実際のドラフト会議と同じようにアマチュア球界の有望株を指名していく。「1度やってみたい!」と強く思わされた。

思い立ったが吉日。すぐにネットで「模擬ドラフト」と検索してみると、ネット上の数カ所で開催されることが分かった。上司にOKをもらい、そのうちの1つに早速エントリーした。

主催者から「まだDeNA、ソフトバンク、オリックスが空いています」との返答が届いた。小学生時代は横浜大洋ホエールズ友の会にも入っていた。編成幹部である河原スカウトディレクターの入団1年目の直筆サイン色紙も、実家のどこかにある。そんな縁? でDeNAに。

今回参加する模擬ドラフトのルールは、実際のドラフト会議と同じで、支配下での指名選手は6人まで。まずはDeNAの現状を再確認。投手と内野手が多めに戦力外通告を受けた。主砲筒香の後継候補や捕手強化も必要だろう。あれ、全部か。基本方針として投手2人、捕手1人、内野1人とし、残りの2枠はフリーにしておく。

1位指名は大船渡・佐々木朗希投手に決めている。計算すると、この半年間で佐々木の取材のために約2万5000キロを移動してきた。アメリカ横断3往復分に相当する。社内で佐々木担当を担った立場として、佐々木以外の1位指名は考えていなかった。

佐々木がプロ志望届を提出して以降、各球団が続々と放課後に面談に訪れ、私も大船渡市滞在が続いた。仕事の傍らで、模擬ドラフトの指名候補リストを作る(これも仕事か)。日刊スポーツ発行「ドラフト特集号」では巻末に152人の候補リストを掲載した。そこから「せっかくなら、自分の目で見た選手を」とホテルの部屋で1人、スカウト気取りで厳選していく。

実際に生でプレーを見たのは152人中73人。全国を網羅するのは大変だ。佐々木の面談に訪れたDeNAの進藤編成部長に「こんな感じでいいですか?」とリストを確認してもらいたい衝動に駆られたが、もちろん実行はしなかった。

候補者は最終的に100人に絞り、主催者に佐々木1位指名を伝え、開催日を待った。しかし模擬ドラフトの前日、超大型の台風19号がまさかの関東直撃…。川近くの自宅から念のため早々に避難し、親戚宅で一夜を過ごした。豪雨と強風、鳴りやまぬスマートフォンの緊急速報、眠れぬ夜。朝日とともに自宅の無事を知った。

すっかり忘れていた模擬ドラフト。主催者からメッセージが届いた。「ご自身、ご家族は元気ですか?」「自宅など被害にあわれていませんか?」。相手がどこの誰かも分からない匿名のネット世界で、ぬくもりを感じる。仮眠して夕方5時、模擬ドラフト開始。佐々木の1位競合は間違いない。12球団の1位指名結果がパソコン画面に表示され、私は目を見開いた。(後編につづく)【金子真仁】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)