東京6大学リーグ4年生の進路が、ほぼ出そろった。ドラフトで指名漏れした早大・加藤雅樹外野手(4年=早実)は課題を克服し、2年後のリベンジを目指す。

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ドラフトの指名順位が進むにつれ、加藤の希望はしぼんでいった。調査書は7球団から届いていたが、それらの球団が同じ外野手を指名するたびに「ここはなくなった」「ここもなくなった」と消していった。最後は同じ東京6大学リーグの慶大・柳町がソフトバンク5位指名を受け、「ないな」と観念した。

10月17日は、加藤にとって長い1日だった。

午前中は、都内の安部球場でいつもの練習。「日本ハムが加藤を指名候補に」の記事が載り、仲間から突っ込まれる。プレッシャーを感じながら、昼食後、眠りに落ちた。目が覚めると、ちょうど午後5時。運命の時間が始まった。

寮の部屋に4年生が何人か集まってくる。一緒にプロ志望届を出した檜村、福岡、小藤も自分の部屋で中継を見ているようだ。数時間後、全員が指名漏れを受け止めた。

「焼き肉、行こう」。誰かが言い出した。近所の店へ。用事がある福岡は来なかったが、同じく指名漏れした檜村、小藤、さらにサポートしてくれた2人の4年生でテーブルを囲んだ。隣のグループがドラフトの話をしていた。「自分の話題が出たら嫌だな…」。そんな気持ちを抱えながら、会は始まった。

つらい気持ちは、いつしか消えていた。

「切り替えが大事だよ」

「長い人生でみれば、大したことないんじゃないか」

「2年後を目指して頑張ろう」

自然と前向きな話になっていた。優勝の可能性を残すリーグ戦。立大戦が2日後に迫っていた。

加藤は正直に打ち明ける。「ドラフトが終わって、肩の荷が下りました」。秋を迎えると、どうしてもドラフトのことを考えるようになった。「昼間は、そうでもなかったですが、夜になると、つらかった。『指名漏れしたらどうしよう。どうなっちゃんだろう』って」。もうドラフトのことは考えなくていい。プレッシャーから解放された。恩師たちやファンの励ましの言葉も、「また頑張ろう」と前を向く力になった。

1度も優勝できなかった。指名漏れも味わった。それでも「本当に幸せな4年間でした。主将もやらせていただき、すごく濃かったです」と充実感でいっぱいだ。幸せを痛感したのは、最後の早慶戦、1勝1敗で迎えた3回戦だ。3-3の9回、3年生の金子がサヨナラ打。ガッツポーズして大泣きする後輩を見て、涙が止まらなかった。1回戦に敗れ慶大に優勝を許したが、早慶戦の矜恃(きょうじ)は守った。「一生、忘れません」。

社会人野球の東京ガスへ進む。もちろん、2年後のドラフト指名を目指すが、心境の変化、いや、心の成長がある。

加藤 ドラフト、ドラフトと思っても仕方ないと、この1年で感じました。追いかけるほど、遠くなるもの。結局、野球がうまくなり、試合で結果を出さないと呼ばれない。そこにのみ集中できるようにしたい。

絶対的な武器を磨く。

加藤 誰が見ても活躍すると思ってもらえる選手になりたい。自分は足を使うタイプでもないし、守備も特別うまいわけじゃない。やはり、長打を打てるように。芯に当たったら150メートルぐらい飛ばす打撃をしたい。

3拍子そろうより、オンリーワンの特長を身につける。これからの2年間弱は、新たな加藤雅樹をつくる時間でもある。それができれば、長かったあの1日の意味が増える。【古川真弥】