気恥ずかしそうに話す声を電話口で聞きながら、いくつになっても泣き虫な51歳の顔を思い出した。「ぼくが泣いてしまって、ミーティングが止まってしまって」と天理(奈良)・中村良二監督。10日の夕刻、「2020甲子園高校野球交流試合」が発表された直後のグラウンドでの出来事だった。

日本高野連はその日、中止になった今春選抜大会に出場する予定だった32校を8月の甲子園に招待し、各校1試合の交流試合を行うことを発表。昨秋近畿王者の天理ナインも、甲子園の土を踏むことになった。

新型コロナウイルスの感染拡大で、春も夏もあきらめた甲子園。春は選手の無念を思い、監督は泣いた。夏は、涙も出なかった。10日は、選手より先に監督がうれし涙にくれた。夏空のもと、甲子園の芝を踏みしめるみんなの姿が目の前に浮かんで、涙は止まらなくなった。先が見えない中でも、学校再開に向けて寮で自習し、部活再開に向けて自主練習に励んできた選手たちの姿を見てきた指導者ならではの涙だった。

いつもとは違う夏。いつもとは違うことがある。例年なら都道府県大会はベンチメンバー20人で戦っても、18人が規定の甲子園では2人のメンバーを外す。今夏の交流試合は、20人の選手が招待される。天理は、選抜大会のメンバーだった18人に2人を加える予定で、選手の目による人選を基本にする。「何かがあるから頑張るのではなく、普段から一生懸命にやっている。そういう姿を選手たちは見てますから」と中村監督。いつもと違う夏が来る。【遊軍=堀まどか】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)