全国高校野球選手権大会の中止で各都道府県高野連が開催する独自大会で、8強止まりの兵庫大会はこの日の5回戦8試合が最終戦となった。明石商は延長11回タイブレークの末、神戸第一にサヨナラで敗れた。

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いつもとは違う夏が生んだ時間だった。5回戦までの兵庫県独自大会。7日、神戸第一との、その5回戦。明石商・下山峻平外野手(3年)は、最終戦が初の公式戦出場となった。3年生部員にとって最後の今大会は、試合ごとにメンバー変更を可能とする特別ルールが敷かれた。チームが選んだのは、3年生全員で完走する真剣勝負。固定メンバーをのぞいて、3年生部員を試合ごとに割り振り、下山は「(県大会後半なら地元の)尼崎のチームと当たる可能性があるので」と、あえて最終戦を選択した。結果的に地元との対戦は実現しなかったが、そもそもチームが勝ち進まなければ、自分に出番は回らない。仲間を信じて待った。

狭間善徳監督(56)が「ええ男。一番勉強が出来る」と話す真面目な努力家。公認会計士を目指し、2年半、部活と並行しながら資格の勉強にも励んできた。この日、任されたのは4番。「緊張しました」と、初回の第1打席、1死二、三塁で空振り三振。先頭打者となった4回も空振り三振。快音は遠く、6回に代打を送られた。「打ちたい気持ちがあって。手が出ないのは悔しかった」と苦笑した。「上(スタンド)で見るより、涼斗(来田)も中森(俊介)もスケールが大きかったです」。2年半、時間をともにしてきたチームメートが、一緒に試合に挑むと、どこか新鮮に映った。

敗れはしたが、一生ものの夏になった。「最後に出たいと言った僕のわがままを聞いてもらって感謝しています」。照れくさそうに口にした。例年通りの夏なら、公式戦の出場がかなったのか、分からない。日常を奪われた異例の夏に、忘れられない景色を見た。【望月千草】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)