「予想外でしたね。こんなにいろいろあるとは。でもビジターなんで。よく粘ったと思います」。引き分けに終わった試合の後、梅野隆太郎は話した。その表情には笑顔が戻っていた。

千葉で行われたロッテ戦からの移動ゲームだった7日、甲子園での日本ハム戦前のこと。梅野はポツリとこんな話をした。

「なんか眠れなくて。なんでか分からないんですけど。(午前)2時半に寝たんですけどすぐに目が覚めて。結局、始発の新幹線で戻りましたわ」。元気な様子しか見せない男がこの日ばかりはそんなことを言って表情を曇らせた。

善戦を続けるチームにあって正捕手を守っている。捕手出身・矢野燿大の体制になって当初は「捕手も競争」と言われていた。それでも開幕から60試合を過ぎ、現状を見れば、その座が揺らぐことはないムードだ。原口文仁が復帰してきたが簡単にスタメンマスクを譲ることもないはずだ。

しかし試合に出るチャンスを失うことはなくなったが、それはそれで常に緊張が続くことになる。チーム内の競争に勝てば今度は相手チームとの激しい戦いが待つ。プロ野球選手にとっては当然のことだがやはり気が休まるヒマはない。

心身とも疲労が蓄積する。そんなタイミングでの福岡遠征だ。福岡出身で高校、大学と阪神に入るまではずっと地元。「応援はいっぱい来てくれると思いますね。大学はもちろん、高校とかいろいろな友だち、知り合いから連絡が来てたから」。試合前、そんな話をしていた。

そして活発に動いた。先制の4回はセーフティーバントを決めると高山俊の右前打で一塁から三塁へ激走。そして北條史也のスクイズバントでこれも懸命に走り、生還した。9回には盗塁も決めた。自慢の強肩はその裏に披露。代走・周東佑京をきわどいタイミングで二塁に刺した。快音こそなかったがハツラツとした動きを見せた。

3月にヤフオクドームで行われたオープン戦でも「甲斐キャノン」で有名な捕手・甲斐拓也から盗塁を決めていた。あの日は藤浪晋太郎も投げていたけれど。

とにかく普段は来ないパ・リーグの本拠地球場で元気をもらえれば梅野はもちろん、チームにとっても大きいはず。福岡は梅野を、阪神を元気にさせる。年に1度の強敵ソフトバンクを相手にそんなことを思っている。(敬称略)

9回裏ソフトバンク2死一塁、打者グラシアルのとき一塁走者の周東が二盗を試みるが梅野の送球で阻まれる(撮影・梅根麻紀
9回裏ソフトバンク2死一塁、打者グラシアルのとき一塁走者の周東が二盗を試みるが梅野の送球で阻まれる(撮影・梅根麻紀