ファームで調整を続ける藤浪晋太郎は現在、25歳。実績はあるが言うまでもなく、まだこれからの若い投手だ。制球難からの復活を目指し、苦闘しているのは虎党でなくても知るところ。そんな藤浪に「阪神という環境はどうなのか」との意見が野球ファンの間でささやかれている。

それに呼応するわけではないが“本職”の間にも動きはある。水面下で、非公式に、他球団がトレードの可能性を探っていることはウソではない。

しかし。ドラフト1位入団で25歳。実績もある。そんな投手がトレード放出されるだろうか。そう思うが阪神には過去、そんな実例があった。先日、その人物が解説の仕事で京セラドーム大阪を訪れていた。

野田浩司。51歳。80~90年代に阪神、そしてオリックスでエース級の働きを見せた右腕だ。95年のロッテ戦でマークした1試合19奪三振はいまもプロ野球記録。その野田が阪神からオリックスに移籍したのは92年オフ、24歳のときだった。

当初は移籍に難色を示した野田だったが受け入れ、のちにオリックス黄金時代を代表する投手になった。そんな野田に聞いてみた。藤浪をどう思うか。

「環境で選手の気分が変わることはあるでしょう。周囲の見方も変化しますしね。本人だけでなく阪神も苦しんでいる。矢野監督が『そっとしておいて』と言う気持ちも分かります」

そう話した野田は自身の経験も振り返り「藤浪は阪神で復活するのがベスト」という結論だった。理由がいかにもプロらしい。

「注目されないところに行ったら最初はホッとするかもしれない。でもすぐに寂しくなりますよ。ボクも最初、宮古島キャンプに行って取材陣が少ないのに驚きましたから。評論家なんて1人もいない。イチローが出てくるまでオリックスの記事は探さないと発見できないぐらい。気楽だったけど寂しさはあった。阪神から他球団に移ったらそれを感じますよ」

日の当たる道を歩いてきた野球エリートには、それなりの環境がついて回るのが当然。それを受け入れてこそのスター選手だと言うことか。藤浪は復活へじっくりと歩んでいる。

楽天に敗れ、交流戦の借金は3となった。今以上に投手陣が苦しくなる夏場。藤浪が戻ってくれば投手が1人加わったということ以上の大きな影響がチームにもたらされるはずだ。(敬称略)

阪神対広島 6回、この回を抑える藤浪晋太郎(撮影・清水貴仁)
阪神対広島 6回、この回を抑える藤浪晋太郎(撮影・清水貴仁)