強い楽天に連敗を喫した。独断で言えば今季ここまでの12球団でもっとも頑張っているのは楽天だ。混戦のパ・リーグにあって現在、首位を走る。昨季は首位・西武に29・5ゲーム差をつけられての最下位に沈んだ。それが1年でこの快進撃だ。阪神、セ・リーグばかり気にしているとなかなか実感がないが称賛されるべきことだ。事実、強い。

なぜなのか。楽天関係者に聞いた。もっとも大きなその理由がふるっている。「やっぱり危機感でしょうね」。エース格の則本昂大が開幕前の3月11日に右肘クリーニング手術を受けた。さらにもう1人の中心である右腕・岸孝之も左太もも裏の違和感で開幕してすぐに戦線離脱していた。

計算できる先発投手2人がシーズン最初から使えない。これは一体、どうなることか。その危機感をチーム全体で感じ、それぞれが持てる力を出した結果が今の成績につながっているという話だった。

昨季のパ・リーグ打点王、浅村栄斗のFA加入など要因はあるのだが底流に流れるチームとしてのメンタルが興味深い。やはり闘将・星野仙一が最後に鍛えたところだ、と思っている。

星野と最後にゆっくり話したのは16年のオフだ。芦屋市内の自宅。昼間だったこともあったが、ともにアルコールは好まないのでコーヒー、日本茶を何杯もおかわりしながら話した。そこで星野が強調したことは2つだった。

1つは「たまには勝ってファンを喜ばせてやれよ。阪神は。ホンマに」ということだ。「あんなに応援してくれるファンはどこにもおらんぞ。そのファンを喜ばせてやれよと思うよ」。柔和な顔と厳しい表情を繰り返し、話した。

指揮官・矢野燿大が「ファンを喜ばせたい」と口にするのはその考えを受け継いでいるからだと思っている。もう1つ。これは星野ならではの“夢”だろう。

「俺の夢はな。阪神と楽天が甲子園で日本シリーズを戦うこと。それだけなんや」。そう強調していた。星野が亡くなった昨季は、しかし、両軍、最下位という結果に終わった。

そこからはい上がって楽天は現在、首位だ。そして阪神もここに来て苦しいが連日、激戦を繰り広げている。星野のためだけに戦うのではない。だがともに最高の結果が出れば星野の夢が実現する可能性はある。そんな思いで日々の戦いを追っている。(敬称略)

阪神対楽天 10回表楽天無死満塁、中前に勝ち越し適時打を放ちガッツポーズする辰己(撮影・上田博志)
阪神対楽天 10回表楽天無死満塁、中前に勝ち越し適時打を放ちガッツポーズする辰己(撮影・上田博志)