また東京ドームに来た。前回は7月26日からの3連戦だった。通常の場合、次はこちらのホームでの戦いになるはずなのだが、なにしろ阪神には高校球児に甲子園を明け渡している事情がある。そこで、また敵地だ。例によって試合前、敵将・原辰徳と少しだけ話す。こちらの顔を認めると、こんな切り出し方をした。

原 どうですか? 阪神は?

高原 そうですね。1歩進んで2歩下がる、みたいな感じですかねえ。

若者には分からないかもしれないがチーターこと水前寺清子の「三六五歩のマーチ」である。その歌詞を少しアレンジして、乗り切れない阪神のチーム事情を表したつもりだ。

それに対して、原は何と言ったか。

原 それは、う~ん、いいとは言えませんね。ウチは2歩下がって、こんな感じですかね。

そう言いながら3歩ほど軽くステップした。

実は「三六五歩のマーチ」はこれが正解である。歌詞には「一日一歩 三日で三歩 三歩進んで 二歩さがる」とある。これならゆっくりながらも前進していることになる。

前カード、広島で勝ち越した巨人はペナント制覇へ、かなり有利な状況になった。もちろんそれで指揮官が浮かれているはずもないのだが、この明るさを出せるのはやはり名将だろう。

対して阪神。決め手を欠く打線は典型的な「スミ1」に終わり、逆転負けを喫した。両軍の実力差はあまりないようにも見えるが、やはり小さく思えて大きな違いがある。

波に乗れない理由は他にもある。これでカード初戦は5連敗だ。8月に入って1度も勝っていない。

「そうなんです。そこなんですよね。頭を取れば少しは乗っていけると思うんだけど。打つ方がね。ハルト(高橋遥)が懸命に投げているのにね。4安打に抑えているんですから」。ヘッドコーチ清水雅治も情けなさそうに話した。

広島がDeNAに勝ち、2位に浮上。ここで4位阪神が首位巨人を下せばセ・リーグのためにも少し面白くなるはずだったのだが。ため息が出る試合になってしまった。

それでも戦いは続く。

「しあわせは 歩いてこない だから歩いて ゆくんだね」。幼い頃、流れていた曲がなぜか頭に浮かんでしまう。そんな東京の夜だった。(敬称略)