午後10時を回って登場した鳥谷敬の二塁打。雨の中、辛抱強く応援した虎党はいいものを見た。今季限りで退団する鳥谷は“ある記録”の「歴代2位」だ。遊撃手としての試合出場数。今年ここまで1760試合で遊撃を守った。

「歴代1位」は現在、ヤクルトの打撃コーチを務める石井琢朗だ。1767試合で守っている。ちなみに3位は吉田義男(日刊スポーツ客員評論家)の1740試合だ。その石井に阪神で興味を持つのは誰か聞くとこの男の名前を挙げた。木浪聖也だ。

「おもしろいよね。最初に比べれば打撃もよくなってきた。昨日(10日)の2安打はラインがよかったね。手首を返さずにうまく打てている。あれができれば率が残りますね」

10日は左翼方向に安打、三塁打を放った。逆方向に打つことが重要なのはすべての打者に共通するが特に木浪のようなタイプには大事だ。石井もうまかった。

石井がうまかったのは守備も同じだ。石井が広島で内野守備コーチをしているとき、田中広輔ら現役選手数人に混じってノックを受けていた。一番、動きがスムーズに見えたのが石井だったのは衝撃的だった。

そんな石井に比べれば、木浪はまだまだ。うまいヘタを言う前に失策が目立つ。石井と比べるレベルでないのは言うまでもない。14失策は10日現在、セ・リーグ遊撃手のワーストだ。それでも懸命に守っている。

「場数ですよ。ショートは。場数を踏んでレベルアップしていくもんです。それに何より条件が恵まれているんだから…」

石井はそんな話をした。条件とは何のことか。もちろん阪神が甲子園を本拠地にしていることだ。

「土のグラウンドは足の使い方をしっかり覚えられますから。人工芝だったらどうしても腰高になったり、待って取ったりという風になるけどね」

吉田義男、鳥谷敬と阪神には名遊撃手がいた。さらに藤田平、真弓明信、平田勝男、久慈照嘉と次々に名前が出てくる。そういう風土があることは、やはりチームの誇りだろう。

「土のグラウンドが今、しっくりきています。もっと練習して、うまくなりたいです」。勝利に貢献するマルチ安打を放った木浪はそう話した。打って守って。鳥谷が球団を離れることが決まった今、「系譜」を受け継いでいけるか。来季へ向け、その興味もある。(敬称略)