「昨日、テレビ見てたらなあ。最初、サンテレビで放送して、途中、ABCになって。ほんで、またサンテレビになったんや。あれ、なんやねん?」

先日、甲子園駅近くで若い男性が友人にこんなことを言っていた。かなり驚いた。関西名物「リレー・ナイター」を知らんのか? 思わず教えてあげようかと思ったが、やめた。

関西の多くの虎党にとって阪神の生中継=サンテレビだ。ABCもよく中継するが、そこは準キー局として全国ネット番組との兼ね合いもあり、完全中継はなかなかできない。だがサンテレビはとことんやる。私にとっても、子どものころから最後まで阪神を見せてくれる放送局だった。

19日もヤクルト戦を中継する。実況は64歳のベテラン・アナウンサー、谷口英明だ。普段と同じだが特別な日でもある。谷口にとってこれが最後の実況になるからだ。

「定年後もやらせてもらっていたけれど、ここで区切りをつけようかなと。初めてしゃべったのが88年5月のヤクルト戦。最後もヤクルト戦なんだなあと思ってます」

谷口は大阪・平野区の出身。サンテレビへの入社は79年だったが実況までに10年かかった。「当時はNHK出身の大物の方が多くて。すぐに実況なんてとんでもなかった」。しかしそこからは低音の安定したアナウンス技術で虎党に試合を届け続けてきた。

「思い出は05年、岡田阪神の優勝シーンかな。あそこがピークだったかもしれません」。そう話すが、最後の実況は大変なことになるかもしれない。

近本光司の新人安打セ・リーグ新記録。あのミスター長嶋茂雄の記録を抜く瞬間が訪れるかもしれないのだから、これはしゃべり応えがあるだろう。

指揮官・矢野燿大は谷口と同じ平野区の出身だ。「谷口さん、地元が同じなんですよ。そうですか。最後なんや。近本のこともあるしね。そらあ、記念になる試合にしますよ」。虎番キャップの取材が終わった後、声を掛けるとそう言い切った。

阪神川尻哲郎のノーヒット・ノーラン(98年5月)、ヤクルト・バレンティンのシーズン56号本塁打(13年)も実況している谷口。「近本、濃厚ですね。思い出の実況になれば思い残すことはないです」。谷口も、そして虎党のみんなが興奮する試合を見たい。(敬称略)