16年の12月、大阪市立の大和田小学校にいた。大阪府の教育事業の一環で梅野隆太郎が同校を訪れていたからだ。約400人の児童たちとふれ合う中でこんな質問が出た。「これまで何本、ホームランを打っていますか。来年は何本打ちたいですか」。

「阪神の3年間で11本。来シーズンは10本以上は打ちたいと思っています」。梅野は真剣に答えた。我々にも「来季は2桁以上の本塁打を目標にしていきたい。自分のいいところだとも思うし、意識したい」と強調したことを覚えている。

11日、巨人とのCSファイナル第3戦。阪神に力を与えたのは梅野の先制ソロだ。「2桁本塁打やん」と声を掛けると「びっくり」と笑っていた。残念ながらシーズンではないのでカウントされないがキャリアハイの今季9本に加え、これが初の「10号」だ。

梅野が入団した13年のドラフトは有望な捕手が多かった。嶺井博希(DeNA)吉田裕太(ロッテ)ら。だが最大の注目は大阪桐蔭の森友哉(西武)だった。

「ウチは捕手では森友哉が1番評価。梅野は2番目。梅野は2位では消えると思っていたけど事情があってウチは2位では指名できなかった。ところが4位でまだ残っていたのでラッキー! と思って急いで指名したのを覚えています」

阪神の九州担当スカウトの田中秀太はそんな話をする。はたして2人ともチーム内で打てる捕手として成長してきた。特に森は首位打者まで取ってしまった。今季、交流戦のとき「ごっつい打ってるやん!」と言うと「そんなん、すぐに落ちますって」と謙遜していたが、違った。

大学出で年齢は上だがドラフト同期の森に対し、梅野は笑いながらこんなことを言う。「彼は打つでしょ。打つもん。比べられんですわ。捕手として全体で見てもらいたいですね」。森の打撃はプロでも一目置くレベルということか。

大阪桐蔭でバッテリーを組んで春夏連覇を果たした1学年上の藤浪晋太郎も言う。「今まで見てきた中で最高のバッターの1人。首位打者とってもまったく不思議じゃないです」。

そんな梅野と森の“直接対決”が日本シリーズの実現すれば興味深い。ともに「1勝3敗」で崖っぷちまで追い込まれた阪神、西武にエールを送りつつ、そんな夢を膨らませた。台風で中止、順延の影響がどう出るか、だ。(敬称略)