ヤクルトといえば大スターの山田哲人もいるが最近では村上宗隆だ。00年2月2日生まれ、今季3年目の弱冠20歳ながら昨季36発を放ち、阪神のルーキー近本光司を寄せつけず、新人王を獲得した。日本人選手であのパワーはうらやましい限りである。その村上が試合前、いそいそとあいさつに向かった先は阪神3年目・島田海吏だった。

熊本・九州学院で島田は村上の4年先輩。同じ17年ドラフト入団だが島田は上武大を出ている。後輩らしく丁寧に話す村上の様子を見ていて島田を少しからかいたくなった。

島田クン。向こうは新人王サマやで。すると島田が言う。「ホントですよ。ものすごいバッターですからね。ボクが勝っているのは年齢と足の速さだけ」。なかなかの返しに笑ってしまったが、ここに島田の“真実”が隠れている。

この日、阪神は伏兵・植田海に驚きの満塁弾が飛び出した。「外国人にでっかいのを期待してるのに。あんな小さいのが打つんだもん」。打撃コーチの井上一樹は試合後、虎番記者に囲まれる前、こちらにボソリとつぶやいていた。

植田の1発は風に乗ったとしても思い切りのいいスイングだった。しかし彼がシーズンで1軍ベンチ入りするとすれば、やはり守備固め、そして代走としての仕事が中心だろう。そのポジションは「足の速さで村上に勝っている」島田が狙うところでもある。

それだけではない。植田の満塁弾が出る直前の打者は荒木郁也だ。7回2死一、二塁から荒木が内野安打でつないだ。そこで1発が出た。いい仕事だった。

荒木もチームでは俊足で知られる。現在、遠征に出ているチームには足の速さで売る選手が複数いる。レギュラー争いだけでなく、ここでも地味ながら競争がある。

「そうなんですよ。他に江越もいますしね。そこで内、外野のすみ分けもある。それぞれの位置を守る選手がベンチ入りできるかどうかは分かりませんけれど。チーム編成の問題もあるし。でも楽しみですよ」。外野守備兼走塁コーチの筒井壮は言った。

植田、島田、荒木。そこに江越、さらに宜野座キャンプに参加していた熊谷敬宥か。代走要員の座を巡る争いは地味に、しかし熱く続いている。練習試合と言っても出番を狙う選手たちにとって真剣勝負なのは言うまでもない。(敬称略)

ヤクルト対阪神 7回表阪神2死満塁、植田は左翼に満塁本塁打を放つ。投手中尾(撮影・浅見桂子)
ヤクルト対阪神 7回表阪神2死満塁、植田は左翼に満塁本塁打を放つ。投手中尾(撮影・浅見桂子)