プロ野球選手は毎回、きれいなユニホームを着てグラウンドに立つ。汚れなどを落として新品同様にしているのが、クリーニング店の「オートランドリータカノ」。プロ野球12球団と契約し、奈良智行業務部マネジャー(54)が代表として現場で指示する。プロ野球界には欠かせない奈良氏の仕事とは?

(2016年5月19日付紙面から)


クリーニング

 誰もいない東京ドームに奈良さんが姿を見せた。試合開始10時間前の午前8時。台車にユニホームを積み、ロッカールームへ運び始めた。駐車場とロッカールームを計8往復。全ての荷物を運び込むと、各選手のスペースにきれいに畳まれたユニホームを並べる。「やっぱり選手にはきれいなユニホームを着てほしいですね。テレビで真っ白なユニホームを気持ちよく着てるのを見るといいですね」としみじみと語った。

 納品が全て終わると、別の作業が始まる。クリーニング店としての仕事は休憩時間だが、グラウンドに向かう。練習の準備を開始。打撃練習の準備に片付けまで。練習が終われば、またクリーニング店の顔となり、回収作業が始まる。練習前と試合終了後の2度。全て回収を終えると、工場に戻った。どれだけ試合が遅くなっても、午前7時にはきれいなユニホームに仕上げる。「泥は大丈夫ですが、コーヒーやマジックの時はちょっと大変。特殊な溶剤で、僕が責任を持ってやります」と話した。

 全国各地に工場があることもあり、今では12球団がオートランドリータカノと契約。キャンプ地から地方遠征まで全国各地を飛び回っている。「染み抜きなどで使用する溶剤等は発火性の可能性があるので飛行機、電車では運べないんです」と北は北海道、南は九州まで、可能な限りレンタカーに荷物を積んで移動を繰り返す。巨人1球団に限っても、1日のクリーニング量はユニホーム、アンダーシャツなど一式含めて800~1000着。年間だと約15万着にも及ぶ。

2016年5月7日の巨人―中日戦で、ベンチから洗濯物を運ぶ奈良智行さん
2016年5月7日の巨人―中日戦で、ベンチから洗濯物を運ぶ奈良智行さん

 プロ野球界を担当するきっかけは、楽天が新規参入した05年だった。初めての試みだったため、球団に直談判し、遠征先まで同じ行動を取った。「とにかく、朝から晩まで球場にいた。早い時では朝7時。試合が終わって、回収して洗濯して、全て終わるのが朝の7時ぐらい。次の日も朝7時からだから、終わってそのまま球場に行くんですよ。3日間で1、2時間しか寝られなかったこともありましたね」と11年前を思い出した。

 楽天の1球団からスタート。軌道に乗ってきたころ、各球団から注目を集める存在となった。楽天で用具係を務めていた三宅成幸氏(68)と知り合い、気づけばグラウンドの作り方や、ネットの修理、プレートの埋め方まで教わった。それが転機となり「あの人は誰だ?」と他球団で話題に。「何でもこなすクリーニング店」と広がり、全球団を担当することとなった。

 今でもベッドに入らず、ソファで仮眠する日もある。肉体労働だが「それ以上に人との出会い、つながりが僕の支えになっています。(巨人の用具係の)大野(和哉)さんだってそうですし。星野(仙一)さん、野村(克也)さんには、この仕事をしていなかったら出会えなかった」と魅力を語った。

 球団に合わせ、応援歌を着メロに設定している。「阪神の関係者なら、六甲おろしですよ」と笑う。汗をかいて、選手の汗と汚れを落とす。毎回何げなく着るユニホームにはたくさんの苦労がある。【細江純平】