11年ぶり6度目出場の金足農(秋田)が、スクイズなどの犠打を絡めて得点を重ねる“お家芸”で鹿児島実を5-1と破り、23年ぶりの甲子園白星を挙げた。3回裏に菅原天空内野手(3年)の右中間適時三塁打で先制した直後、主将の佐々木大夢外野手(3年)がスクイズで加点。8回裏にも斎藤璃玖内野手(3年)が再びスクイズを決めて突き放し、好投のエース右腕・吉田輝星(3年)を援護した。東北勢の初陣も9連勝と伸ばし、初の優勝旗白河越えに勢いをつけた。14日の2回戦では大垣日大(岐阜)と対戦する。

 23年ぶりに甲子園で校歌を歌った。18人の選手は、体をのけぞらせるほどの大声で。紫色に染まったアルプス席もメガホンを振りながら一体となった。佐々木主将は「みんなと一緒に苦しんできたので、校歌を歌えてうれしい。この1勝でさらに成長できたと思うし、自信になります。大声援と熱気は幸せでした」。今大会前に通気性の良い素材に新調したユニホームの「KANANO」の文字を泥だらけにしながら、汗まみれで笑った。

 バントも駆使して駆け回る「雑草軍団」を高校野球ファンに思い起こさせた。2回には高橋佑輔内野手(3年)がスクイズを空振りして好機を逸したが、3回に培ってきた“お家芸”が復活した。佐々木主将が3-1から捕手前にスライダーをスクイズ。三塁走者の菅原天がタッチをかわす好走塁で生還した。

 苦い思いがバント力を向上させた。今春の東北大会で2度失敗し、準々決勝敗退。翌日から朝6時にグラウンドに来て、マシンを速球と変化球に設定し、自主練習を毎日継続した。全体練習でもフリー打撃の1カ所をバント専用にして、チーム全体のレベルも上げた。シート打撃でも状況を想定して1人複数回のバントからスタートする徹底ぶりが結実した。

 一時は野球を諦めかけた時期もあった。1年冬、コーチから「走り方がおかしいぞ」と声をかけられ、練習を中止して病院に直行。甲状腺の病気「バセドー病」と診断された。医師から運動禁止を厳命。マネジャーに転身。深夜にトイレに何度も起き、階段の上り下りすら息切れする日々が続いた。1日3度の投薬治療を続け、練習に復帰したのは2年の昨秋。「監督、親、引き留めてくれた仲間の支えに感謝です。全力疾走、全力発声でひたむきなプレーを見せたい」。努力を重ねて今春に定位置をつかんだ。現在も完治していなく、1日2度の投薬は続けているが、吉田の負担軽減のために主将にも就任。その姿でのスクイズ成功は、勢いを増す特効薬だった。

 2点差に詰め寄られた8回には、二塁打で汚名返上した高橋を三塁におき、斎藤がスクイズで加点し、勝負を決めた。中泉一豊監督(45)も「伝統もありますが、難しいボールを、よく決めてくれた」と絶賛。84年にPL学園を追い詰めて敗れた4強超えが最初の目標。努力の根を力強く伸ばす「雑草軍団」が、100回大会で花を咲かせるつもりだ。【鎌田直秀】