07年、高校球界は仙台育英・佐藤由規(現ヤクルト)がまぶしく輝いていた。宮城発の“由規フィーバー”の一方で、秋田勢は苦闘の時代。夏の甲子園に6年ぶり出場の金足農も大垣日大に1-2で敗れ、県勢初戦10連敗となった。

 この年の金足農は本当の雑草軍団だった。秋田大会はノーシード。前年の石山泰稚(現ヤクルト)のような絶対的エースはいない。9人野球を貫けるほど力のある選手もいない。6投手を用い、攻撃ではお家芸のスクイズを駆使。束になった雑草は、最後に第1シード秋田を6-0で下した。

 とはいえ、1人1人は個性的。大会を通じエース格に成長した2年生、高橋健介投手は左腕では珍しいトルネード投法。遊撃手で救援投手も務めた浅野高馬主将は空手の達人でもあった。浅野はその後、八戸大(現八戸学院大)で1学年上の秋山翔吾(現西武)とともに全国4強を経験した。

 嶋崎久美監督のマシンガンノックも健在だった。試合後の口癖は、「3文字のために」。3文字とは、「甲子園」のこと。11年に退任し、この年が同監督最後の甲子園となってしまうが、通算34年、母校に種をまき続けた。その遺伝子を継ぐ選手たちが3文字を最後まで沸かせ、誰よりも“実りの夏”を感じたことだろう。【元日刊スポーツ東北総局記者・清水智彦氏(現東北福祉大広報課)】