北海道胆振東部地震の震源地を含む室蘭地区が開幕した。

震度6強を記録した安平町出身の苫小牧南・桜井詠周(えいしゅう)捕手(2年)は、ほとんど練習できない状況で迎えた室蘭栄戦で1安打を放ち、8回には好守も見せた。苫小牧南、苫小牧東には、安平や、震度7だった厚真町出身の3選手がベンチ入りしていた。活動再開のめどがたたない穂別は、出場を辞退した。

必死でボールをつかみ、タッチした。6点ビハインドの8回1死三塁、苫小牧南の桜井捕手は、室蘭栄の三塁走者後藤健太(1年)の激しいスライディングにも恐れず、左手を伸ばした。スクイズを阻止し「あそこで1点取られたらコールドで終わってしまう。何としても9回まで試合をしたかった」。初戦敗退を喫したが、ベストは尽くした。

安平町にある実家の実成(じつじょう)寺は、6日の地震で門が倒れ、建物が傾いた。隣接する居宅も1階から2階にかけて大きな亀裂が入った。2階にある桜井の部屋も、ベッドが約20センチ動いていた。地震の揺れで動いた本棚がドアの前にあり、すぐには脱出できなかった。

何とか棚を動かし、1階の居間で両親と合流。その日は家屋の安全が確認できず車中で1泊し、7日に家を片付け戻ることができた。8、9日は同町の避難所で約10時間、給水作業を手伝った。試合前の練習は10日の1日だけ。5日ぶりの練習は「体が思うように動かず、すぐ疲れてしまった」という。だが「試合では何とかしなきゃという思いだった」。言い訳はせず、グラウンドに立った。

厚真町出身の苫小牧南の三塁コーチ中村圭佑(1年)は、苫小牧市内の下宿で被災した。実家の母からは7日にLINE(ライン)で、家族の避難所入りを知らされた。「8日にテレビのニュースで厚真の現状を見てがくぜんとした」。この日は三塁コーチとして声をからすも、頭から不安が消えることはなかった。

震災から6日目。落ち着きを取り戻しつつある地域もあるが、傷痕が深い室蘭地区は非日常の日が続いている。そんな中、グラウンドでプレーできた。桜井は「仲間や地域の人に助けられて野球が出来た。今度、どこかで災害が起きたときは恩返ししたい」と前を向いた。【永野高輔】