スリル満点の「盛付劇場」でミラクル突破だ! 2年ぶり5度目出場の盛岡大付(岩手)が石岡一(茨城)に延長11回、3-2でサヨナラ勝ちして初戦を白星で飾った。完封負け目前の9回2死一塁、あと1ストライクで終戦からつなぎ、6番小川健成外野手(3年)が同点の2点適時打。延長11回は1死満塁から悪送球を誘い、21世紀枠での初出場校を逆転で振り切り、甲子園春夏通算10勝目を手にした。次戦は29日の第2試合で、近畿王者の龍谷大平安(京都)と対戦する。

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1点を追加され、快音を響かせた中軸2人の飛球も中堅フェンス前で失速し、敗色ムード漂う9回裏2死一塁。5番小野寺颯斗内野手(3年)も1-2と追い込まれてから、絶妙な演出を配した「盛付劇場」が開演した。

小野寺 最後まで冷静でいられた。チャンスに打てない自分だし、「最後の打者になったらどうしよう?」という思いも浮かんだけど、そんなこと考えたら打てない。思い切っていきました。

右翼線への二塁打で2死二、三塁。そして「盛付のパンチ」こと、6番小川も続いた。直前のスライダー2球を空振りとまったく合わず、1-2と追い込まれてから、奇跡の一振りが140キロ直球を捉えた。

小川 一冬かけてやってきたことは、雪の上の打撃だったり、他のチームとは違うもの。そう口ずさんでから、自分が決めるとボールを待ちました。

2者を迎え入れる同点打が、一、二塁間を破った。長靴を履いて屋外グラウンドで打ち込みに徹した日々が、自信の裏付けだった。あとは勢いに任せるだけ。延長11回は1死満塁、7番島上真綾捕手(3年)の一打は142キロに詰まって併殺かと天を仰ぐも、石岡一のエース岩本大地(3年)が本塁に悪送球。三塁から平賀佑東外野手(3年)が歓喜のホームを踏んだ。

8回まで2安打11三振。岩本のデキは想定外だった。対戦データから(1)左打者に球数が多い(2)三振は低めの変化球を振らされている、と対策を立てたが、小川は「ストレートの伸び、スライダーの切れも想像以上」とてこずった。それでもベンチプレス115キロのパワーで振り負けず、5回にも右二塁打。ポップ歌手のぱんち☆ゆたかをまねて、自称「ぱんち☆けんたろう」の歌声でチーム一の人気者は、「(11回の打席は)ホームランを狙ってました」とスライダーを引っかけての三ゴロに慌てたが、満塁につなぐ失策を誘った。

関口清治監督(41)は「苦しむと思ったけど、このチームで一番苦しみました」と冷や汗をぬぐった。初出場から9大会連続で初戦敗退も、13年センバツで初勝利。初出場の安田学園(東京)にサヨナラ勝ちし、「あのときも内野へのゴロ(遊撃内野安打)で決まった。節目の勝利はいつも苦労します」。岩手勢の2ケタ勝利は花巻東(14勝)に続く2校目で、「前回の智弁学園(奈良)もそうですが、平安のようなチームに勝ってこそ勢いづく」と、歴代2位102勝を挙げるV候補との初対決に胸を躍らせた。【中島正好】

○…2番佐々木俊輔(3年)が9回同点劇の火付け役になった。2-2と追い込まれ、121キロスライダーにも詰まったが、「出るしかなかった。粘り強く」と二塁後方にチーム3本目の安打を落とした。「全員があきらめてなかった。自分たちの野球を信じて、9回までできました」と胸を張った。主将の及川温大内野手(3年)は「こういう経験をして、もっと強くなりたい」と大苦戦を糧にする。