センバツに注目のスラッガーが誕生した。山梨学院(山梨)の野村健太外野手(3年)は1回戦の札幌第一(北海道)戦で、1試合2発の大会記録に並ぶ離れ業をやってのけた。それも、1本目は左中間最深部へ、2本目はバックスクリーンへのいずれも特大アーチ。吉田洸二監督(49)から「山梨学院のデスパイネ」と命名され、大切に育てられてきた右の長距離砲が、その片りんを存分に見せつけ、チームを記録的大勝に導いた。

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野村は長距離打者特有の雰囲気をまとって打席に立った。打者一巡し7点をリードで迎えた1回の2打席目。2死一、二塁。2番手投手野島に対し1ストライクからの2球目が、甘くベルト付近へ。調整十分の野村は見逃さない。左中間へ鮮やかな放物線を描く3ラン。これで一挙10得点。センバツ史上2度目となる初回2ケタ得点とした。

「肘をたためてうまく打てました」という野村の魅力は、高校生離れした飛距離にある。山梨学院の砂田球場は両翼100メートル。その後方に高さ約20メートルのネットが伸びるが、野村は過去3度、そのネットを越え、球場のはるか先にある川まで運んだことがある。推定飛距離165メートル。チームでも誇らしいエピソードだ。その飛距離とふくよかな風貌からキューバ出身のソフトバンクの助っ人になぞらえられ「デスパイネ」の異名をもらった。

さらに8回の6打席目ではバックスクリーンへ。初球の直球を「狙ってました」と、会心の当たりで気持ちよく運んだ。これが高校通算40本目。「ファーストストライクを打つ」と、積極的な打撃が基本で、直球、変化球を問わずに反応できるスイングの速さと、ぶれない体幹が、好球を逃さない裏付けになっている。

野村の3ランでチームは完全にスイッチが入った。3月9日の対外試合解禁2戦目の帝京戦を28-9と圧勝した打力がさく裂。史上最多タイの24安打で先発全員打点、24得点と積み上げた。点が入るたびにナインは両手の指を組んで「力」の文字を披露した。試合前に動画を見て、お笑い芸人TIMのレッド吉田のネタを借用したものだった。

初戦の歴史的大勝には得意のラップが一役買った。野村と椙浦(すぎうら)元貴捕手(3年)が中心となってナインの気分を高揚させた。ラップのリズムのように、切れ目ない打線が、相手にとっては脅威となる。投手では星稜の奥川が、そして打者では山梨学院の野村が、このセンバツの主役に躍り出た。【井上真】

◆野村健太(のむら・けんた)2001年(平13)8月27日生まれ、愛知県安城市出身。幼稚園から小学3年まではソフトボール。小学3年から6年までは安城リトルでサードと投手。東山中では愛知衣浦リトルシニアに所属。50メートル走は6秒5。遠投100メートル。入学時は99キロ。1杯800グラムのどんぶり4杯の大食漢だったが、監督から「絞れ」と指示されて、どんぶりは0・5杯に。魚が好きでサケが大好物。180センチ、90キロ。右投げ右打ち。