早実・清宮93号場外弾、熊本へ込めた特別な思い

1回表早実無死一、二塁、清宮は右中間へ通算93号の先制3点本塁打を放つ(撮影・栗木一考)

<熊本RKK招待高校野球:早実16-10八代>◇13日◇熊本県営八代

 熊本の復興に向け、勇気を届けるアーチをかけた。早実(東京)の清宮幸太郎内野手(3年)が、八代戦(熊本)で高校通算93号となる先制の3ランを放った。昨年も訪れる予定だったが、震災の影響で中止。2年越しで訪れた熊本の地で、右中間への推定135メートルの場外弾を放ち、地元の球児、ファンを感激させた。

 これが、清宮のホームランが持つパワーだった。招待試合2試合目の八代戦の1回無死一、二塁。右中間に描かれた放物線に、子供も、球児も、大人も魅了された。「おぉー」と響き渡った大歓声とともに、打球は場外に消えた。推定135メートルの高校通算93号には過去に数回、旅行で訪れたことのある熊本への特別な思いが込められた。

 清宮 子供の時に、阿蘇山や熊本城にも来ていて。去年も(招待試合で)来るはずでしたが、地震があって…。1年たって、できると思っていなかったので、こういう場を設けてくれたことに感謝しています。

 あの時の記憶は、鮮明に残っている。かつて、家族で訪れた思い出の地が大きな被害を受けた事実に心を痛めた。「熊本城も崩れていましたし、いろんな学校の校舎も…。行ったことのある場所が大変なことになっていて…。何とも言えないんですが…。衝撃的でした」。普段はハキハキと答える清宮が言葉に詰まりながら、心境を語った。

 試合前、和泉監督から「(熊本での試合は)2年越しだよ。あきらめない、野球をやろうな」と声を掛けられた。3500人もが詰め掛けた観客が待つのは何か。主将就任後は「勝利のために打点を稼ぐ」と言い続けた清宮が、この日は違った。「1本出せたのが、自分の中でもホッとした」。ひと息ついたのは、自らにかけた重圧から解き放たれた証しだった。

 その思いは、確実に届いていた。場外弾のボールを回収に向かった八代工高の吉岡青大君(2年)は「本当にすごいです。(プロの)2軍の試合も何度か見に来たことがありますが、プロでも場外は見たことないです」と仰天。清宮がこの招待試合に特別な思いを持っていることを聞き「熊本のために…。とてもうれしいです」と感激した。

 清宮も、サプライズな後押しを受けた。1試合目の文徳戦は文徳ナイン、2試合目の八代戦は秀岳館ナインが早実のスタンドで応援歌を歌ってくれた。「(事前に)聞いていなかったので、うれしかったです。楽しい雰囲気をつくってくれて、本当に感謝しています」。文徳に敗れ、1勝1敗で初日を終えたが、野球で結ばれた絆に球場中が笑顔に包まれた。【久保賢吾】

 八代・緒方空澄投手の話 (清宮に高校通算93号を浴び)「今まで打たれたホームランとはレベルが違った。とてつもなかった。少し高く、少し真ん中に入った直球を振り抜かれた」。

 早実・和泉実監督の話 (清宮について)「ボールをつかまえたら、ああいう(特大の)ホームランばかり。飛距離は本当に出ますね」。