渡辺横浜前監督が語る「新しい野球」内野5人練習も

横浜・渡辺元智前監督(2016年7月28日撮影)

 今春のセンバツから導入されるタイブレーク制が、100回を迎える夏の甲子園でも採用されることが決まった。日本高野連は10日、大阪市内でセンバツの運営委員会を開き、延長13回無死一、二塁から、12回までの打順を引き継ぐ継続打順でタイブレーク制を行うことを決めた。夏の甲子園と地方大会、春と秋の都道府県大会にも導入される。いずれも適用は準決勝までで、決勝は従来通り延長15回引き分け再試合を実施する。横浜(神奈川)の渡辺元智前監督(73)は制度の導入による、新たな高校野球の可能性を語った。

 タイブレークの導入で、新しい野球が生まれる可能性が出てきました。日程の問題や障害予防の面から、制限はやむを得ない面もあるのでしょう。三振が取れて、犠打処理のうまい「タイブレーク用の投手」を作ったり、精神的に強い投手を育てることもより必要になってくる。大げさかもしれませんが、守備では内野を5人にする場面も出てくるかもしれません。接戦で後半を迎えれば、タイブレークを意識する戦い方になるでしょうし、練習や練習試合のやり方も変わってくると思います。

 98年夏、甲子園準々決勝でPL学園と延長17回を戦いました。もし、あの試合でタイブレークが導入されていれば、13回表の先頭打者だった後藤(武敏)には、犠打をさせたと思います。あの日、後藤は当たっていなかったし、追いつ追われつの激闘だった。1死二、三塁になれば4番松坂(大輔)、5番小山(良男)と続きますから。1点取れば勝てたはずです。

 あの試合で、松坂は延長17回250球を投げました。もし13回で終わっていれば、準決勝の明徳義塾戦で頭から行く可能性もあったでしょう。京都成章との決勝戦ではノーヒットノーランをやりましたが、野球には流れがある。もしかしたら、結果は全く違うものになっていたかもしれません。松坂はその後プロへ行き、世界のスーパースターになりましたが、「心技体」、特に「心」を鍛えた高校野球が原点。PL学園との試合がタイブレークだったら、今の松坂は生まれていないかもしれません。

 高校野球は教育の一環です。勝った、負けただけではない。選手たちは野球が好きだからこそ、野球なら我慢にトライできることもある。タイブレークの導入で、失われる精神文化はあるでしょう。しかし、新たな制度の中で精神を鍛えれば、違った面白さも出てくるかもしれない。変化とともに生まれる新しい文化や時代は、歴史が評価してくれる。新しい面を期待します。(横浜高校前監督)