明徳義塾・馬淵監督50勝、上甲氏と重なる逆転劇

明徳義塾・谷合悠斗(左)はサヨナラ3点本塁打で馬淵史郎監督に春夏甲子園通算50勝をプレゼントし、ガッチリ握手を交わす(撮影・宮崎幸一)

 放物線を見ながら、62歳の指揮官は思わずベンチを出た。打球の行方を確信し、両手を上げた。そして跳びはねた。史上5人目となる甲子園通算50勝。あまりにも劇的な幕切れとともに、馬淵監督は節目を迎えた。「この試合は忘れられないでしょうね」。心なしか、目元は潤んでいた。数々の修羅場をくぐった男は、感慨に浸った。

 「勝っている監督には、星があるんよ」。星とは勝ち運のこと。強烈な原体験があった。明徳義塾に就任した翌年の91年。高校野球の指揮官として初めての夏に挑んだ。高知大会初戦で伊野商と対戦。2点を追う9回裏2死、走者はなかった。ベンチで思った。「高校野球をナメていた」。選手が粘り、1点差に。さらに好機で4番津川(元ヤクルト)に打席が巡った。「津川、来い!」。清涼飲料水をコップに注いたが、少ししか飲まなかった。「一気に飲めえ!」。怒鳴った直後に、初球を逆転サヨナラ3ラン。くしくも、スコアはこの日と同じ7-5だった。今、こう振り返る。「あの時、負けていたら、監督を辞めろと言われていたかもしれん。そこから甲子園で50勝か…」。

 2月9日には、愛媛県宇和島市に向かった。今は亡き上甲正典氏の墓前に手を合わせた。「勝たせてください」。顔を近づけ、心の中でそうつぶやいた。センバツで2度の初出場初優勝を成し遂げた名将。心を通わせた親友から力をもらった。土壇場の逆転劇は、何度も奇跡を起こした上甲氏と重なる。「勝負ごとは勝たなあかん。勝つと負けるでは、えらい違いや。命拾いした人ほど命を大切にするという。大切にしようと思う」。いまだ見ぬ春の頂点を目指し、その1歩を踏みしめた。【田口真一郎】