仙台育英が連覇 不祥事出直し27度目夏切符/宮城

古川工対仙台育英 勝利の瞬間、最後を締めた仙台育英・大栄は、駆け寄る主将の阿部捕手(手前=20番)に向かってガッツポーズ。右は菊地二塁手(撮影・高橋洋平)

<高校野球宮城大会:仙台育英7-0古川工>◇28日◇決勝◇楽天生命パーク宮城

 ノーシードの仙台育英が古川工を7-0で圧倒し、2年連続27度目の甲子園出場を決めた。2-0の6回無死満塁からマウンドに上がった背番号10右腕の大栄陽斗(あきと)と背番号20の主将、阿部大夢捕手(3年)のコンビがピンチを無失点で切り抜け、逃げ切った。昨年12月に発覚した元部員の飲酒喫煙で半年の対外試合禁止処分を受け、6月から再始動。主将の阿部が献身的にチームをけん引し、今年1月に就任した須江航監督(35)に甲子園切符をプレゼントした。

 すべてが報われた。主将の阿部はこの夏6度目の校歌を歌い終えると、相手ベンチに深々と頭を下げ、1人遅れて三塁側ベンチへダッシュした。約1500人の応援団の声援を浴びながら両手を突き上げて、全身で喜びを表現した。背番号20の脳裏には、半年間の記憶が駆け抜けていった。

 阿部 あの6カ月が無駄じゃなかった。自分たちがやってきたことは、間違いじゃなかった。(前監督の佐々木)順一朗先生たちの顔が浮かんだ。去年は先輩たちに連れて行ってもらった甲子園。自分たちの代で出場できてうれしい。

 昨年12月、元部員らの飲酒喫煙発覚から半年間の対外試合禁止処分を受け、激動の時間を過ごしてきた。阿部は「チームがへこんでいた。前を向けてなかった」と当時を回想する。練習試合すら許されない6月までは、ひたすら紅白戦を行った。その間、主将としてチームを引っ張る阿部を支える言葉があった。

 「これから先、自分たちのために野球をすることはない。支えてくれた人たちに恩返しするため、甲子園に出る」

 6月の抽選会で悲愴な覚悟で決意表明を行った。思う存分、野球ができない時期があったからこそ「野球をやれる喜び」に向き合うことができた。だからこそ出た言葉だった。自然と感謝のベクトルは両親やスタッフ、応援してくれるベンチ外の控え選手に向いていった。今大会、阿部を筆頭に選手たちは口を開くたびに「応援してくれた人のために戦う」と繰り返した。

 阿部を温かく見守る人がいた。スタンドから見届けた母清美さん(51)だ。阿部の兄貴弥さん(20)は東陵野球部在籍中、部員の不祥事で最後の夏を迎えることなく3年の4月に引退した。「よく優勝してくれた。主将としての責任を少しは果たしてくれたと思う。お兄ちゃんの分まで頑張った」と目を赤くした。

 就任初年度で優勝に導いた須江監督は「いろいろな物を背負ってきた。不祥事で高校野球の思い出が暗いものになりそうだった。何とか成果を出したかった」。有言実行した阿部も「この夏でいろんな人たちに成長した姿を見せられた。お母さんに金メダルをかけたい」と胸を張った。半年間の雌伏の時を経て、さらに成長したライオン軍団が第100回の夏の聖地に立つ。【高橋洋平】