星稜・奥川、松井氏から「頑張って」で150キロ

始球式で力投する松井秀喜氏。左は星稜・奥川(撮影・白石智彦)

<全国高校野球選手権:星稜9-4藤蔭>◇5日◇1回戦

 新星の誕生で節目の夏の甲子園が幕を開けた。第100回全国高校野球選手権記念大会が5日開幕し、星稜(石川)の2年生エース奥川恭伸投手が「ゴジラパワー」で自己最速の150キロを計測。始球式を行った同校OBの松井秀喜氏(44)のエールを受け、藤蔭(大分)との開幕戦を制した。歴史を積み重ねてきた聖地に、剛球開幕の球史が刻まれた。

 分厚い手のひらから受けた「ゴジラパワー」が、自慢の速球に乗り移った。8回2死、藤蔭3番御手洗への初球。奥川の直球がうなりを上げた。「8回で最後だと言われていたので、もう1度立ち上がりの気持ちでいきました」。97球目。内角に投じた直球は、自己最速を3キロ上回る150キロをたたき出した。

 偉大な先輩に勝利を贈ろうと投球に集中していた。始球式の前、バックスクリーンに松井氏の紹介ビデオが流れた。内外野の選手たちが振り返って大型ビジョンを見上げる中、奥川は目もくれずに捕手を立たせてキャッチボールを続けた。とはいえ、レジェンドOBを初めて間近で見て、熱くならないはずがない。投げ終えた松井氏とマウンド上で握手。「頑張って」とエールを受けた。「絶対に勝って花を添えたい」と、初回から148キロを連発。今春のセンバツでは3試合に投げたが、いずれも救援登板。エースに成長した2年生右腕は、8回8安打4失点と粘った。

 石川大会前にもパワーを受けていた。林和成監督(43)の発案で6月上旬に2、3年生約50人が石川県能美市の「松井秀喜ベースボールミュージアム」を訪問。MVPを獲得した09年ワールドシリーズのチャンピオンリングなどを見た。先輩の歩んだ栄光の歴史をたどり、勝負の夏へ士気を高めていた。

 松井氏の始球式が決まっていた開幕試合を引き当てた運命の巡り合わせに、ナインは奮い立った。竹谷理央主将(3年)は「松井さんの前では負けられない」と1安打1打点。「後ろにそらしたら失礼」と始球式のワンバウンド投球を必死に止めた山瀬慎之助捕手(2年)は、4回に左犠飛で追加点を挙げた。

 けん引した奥川は試合後、反省ばかりが口をついた。「150キロを出した時の打者にも四球でしたし、今日はスライダーが全然良くなかった。本当は技術で抑えたいところも、直球しか使えなかった」。林監督も期待が大きい分、「スライダーのコントロールとキレはもうひとつでした。もうちょっと指にかかった真っすぐがあれば」と要求も高い。それでも、レジェンドOBの前でつかんだ特別な開幕戦勝利。4年ぶりの夏1勝を足掛かりに、初頂点へ加速する。【吉見元太】

 ◆奥川恭伸(おくがわ・やすのぶ)2001年(平13)4月16日、石川県生まれ。宇ノ気(うのけ)小3年から宇ノ気ブルーサンダーで野球を始め、宇ノ気中では軟式野球部に所属。全国中学校軟式野球大会で優勝を果たした。星稜では1年春からベンチ入り。1年秋に初めて背番号「1」をつけた。遠投110メートル。50メートル走6秒5。183センチ、82キロ。右投げ右打ち。