羽黒初戦敗退2年エース篠田「甲子園に戻ってくる」

<全国高校野球選手権:奈良大付4-1羽黒>◇10日◇1回戦

 15年ぶり2度目出場の羽黒(山形)が奈良大付に1-4で敗れ、初戦敗退に終わった。初回に適時失策で先制を許し、5回には先発右腕の篠田怜汰(2年)が2ランを浴びた。一方、打線は8安打1得点に封じられ完敗。新チームでは篠田をはじめ、先発を経験した2年生4人が残る。あと2度ある甲子園出場切符を手に入れて、再び聖地に舞い戻る。

 力のない飛球が相手グラブに収まった瞬間、篠田の目から一気に涙があふれ出た。一塁側ベンチ前で相手校の校歌を聴きながら、悔しさだけが込み上げてきた。夏初勝利を自分の右腕でたぐり寄せられず、この夏から任された「背番号1」としての責任を1人で背負い込んだ。

 「全力で投げて先輩たちに任せようと思っていた。初回からバタバタして、うまく試合をつくれなかった。4点も取られて、先輩たちに申し訳ない。悔しい」

 3年生の先輩投手2人を差し置いて、今夏初先発ながら甲子園のマウンドを託された。初回先頭に二塁打を浴び、次打者には三塁手の悪送球が絡んでわずか8球で先制点を献上。2回以降はエンジンがかかり始め、球速は自己最速にあと1キロに迫る144キロを計測したが、5回に痛恨の2ランを浴びた。外角を狙うはずだったスプリットを痛打され「真ん中に甘く入ってしまった」と肩を落とした。

 アクシデントから始まった山形行きだった。篠田は東京生まれで中学は荒川シニアに所属。高校は都内の私立強豪を考えていたが、中3夏のシニアの大会前3日前に友人とのバスケットボールで両手を骨折。大会でアピールできず、都内での進学をあきらめかけていた。その篠田に猛アタックをかけてきたのが、シニアの先輩が進学していた羽黒だった。中3の11月に学校見学に訪れると、一面雪景色。それでも「自分は拾われた身。ここで頑張るしかない」と覚悟を決め、縁もゆかりもない山形行きを決めた。

 この日、息子の勇姿を父浩治さん(46)がスタンドから温かく見守っていた。快く山形へ送り出した父は「遠回りかもしれないけど、どこの場所でも野球はできる。山形のためにも頑張れ」と熱視線を送った。試合後、東京出身の篠田は「山形代表として戦えた」と語った。

 新チームは、先発した2年生4人を中心に下級生9人が残る。篠田は甲子園の土を、あえて持ち帰らなかった。「この悔しい思いを来年、またぶつけたい。また山形で優勝して甲子園に戻ってくる」。夏の県大会決勝で自己最速を4キロ更新する145キロをたたき出し、一躍来年のドラフト候補に躍り出た。「もっと体が大きくなれば、球速も上がる。キレとコントロールで勝負したい。将来はプロを狙う」。無限の可能性を解き放ち、再び聖地に舞い戻り、「篠田」の名を全国にとどろかせる。【高橋洋平】