日大三・井上150キロ「まだ出る」久々実戦で進化

日大三対奈良大付 力投する日大三先発の井上(撮影・梅根麻紀)

<全国高校野球選手権:日大三8-4奈良大付>◇15日◇2回戦

 その瞬間、観客から驚嘆の声が漏れた。2回2死、カウント2-2から投じた、日大三(西東京)・井上広輝投手(2年)の浮き上がる直球は自己最速を3キロ更新する150キロを計測した。「投げる前から、自信はあったので。今は8割くらいの状態。まだ出ると思います」。星稜(石川)奥川恭伸投手に並び、2年生では今大会最速タイに負けず嫌いな性格が表れた。

 1回裏、マウンドに上がった井上は中堅バックスクリーンに体を向け、深呼吸した。4月28日の春季東京大会の早実との準決勝で右腕痛を発症。今夏は登板はなく、109日ぶりの実戦。「やっと投げられる。楽しむ」と純粋な思いを全47球に込め、3回を無安打無失点に抑えた。

 実戦から遠ざかった108日間、復活よりも“進化”を主眼に置いた。全体練習に合流した6月までは、走り込みとウエートトレで下半身を強化。スクワットの重量は100キロから140キロにアップし、体重は73キロから5キロ増えた。「球がホップした」。ボールを受けた佐藤英雄捕手(2年)の言葉が“進化”を証明した。

 空から見守る大好きな人にも、勇姿を届けた。1月、祖父の弟孝行さんが病気で71歳で亡くなった。同校OBの兄大成(1年=青学大)が出場した昨年のセンバツは観戦に訪れたが、自身もベンチ入りした夏は出場を逃した。「甲子園に応援にいくからな」(孝行さん)。「頑張るね」(広輝)。今春のセンバツに続き、約束を守った。

 大会前、自らに立てた誓いも実現した。創志学園・西、星稜・奥川、横浜(南神奈川)の及川雅貴ら2年生投手が注目される今大会。組み合わせ抽選会が行われた2日、井上は「1番を目指します。球速は150キロは出したいです」と決意を込めた。マウンドでは「球速よりも、勝ちを意識した」が、有言実行の150キロで「NO・1」をアピールした。【久保賢吾】

 ◆井上広輝(いのうえ・ひろき)2001年(平13)7月17日生まれ、神奈川県出身。相模ボーイズ、海老名南シニアでは4番投手だった。特技はソフトボールと体操。英検5級。好きな言葉は「最強」。遠投は110メートル。握力は右が45キロ、左が48キロ。180センチ、76キロ。右投げ右打ち。