金足農・高橋「動物たちが力送ってくれた」逆転V弾

横浜対金足農 8回裏金足農1死一、二塁、逆転3点本塁打を放ち、一塁を回りガッツポーズする高橋(撮影・前田充)

<全国高校野球選手権:金足農5-4横浜>◇17日◇3回戦

 生き物たちの後押しが効いた! 金足農(秋田)の「6番一塁」高橋佑輔内野手(3年)が、2-4の8回裏1死一、二塁で横浜(南神奈川)板川からバックスクリーンに逆転3ランを放った。唯一、生物資源科で畜産を学ぶ男が、高校初本塁打でエース吉田を援護した。選手交代をしない極めて異例な「9人野球」も春季地区大会から公式戦18戦連続継続中。全国の農業高校からの応援や激励も受け「雑草軍団」が、唯一残る公立の代表として奮闘する。

 金足農の“生き物係”高橋が、チームを生き返らせた。高めに浮いたフォークを初球から迷いなく強振。「一塁を回って入ったのが見えた。最初はセンターに捕られるかなと思ったけれど、伸びてくれた。動物たちが力を送ってくれたかもしれない。頭が真っ白であまり覚えていません」。右拳を突き上げガッツポーズ。本塁を踏むと真っ先に吉田と抱き合った。

 生物資源科で、命の大切さを学ぶ優しい男。小学生の時には愛犬との触れ合いで動物愛を育んだ。入学後は畜産学を専攻。月曜日の実習以外にも、豚や牛、鳥などの世話に足を運ぶ。甲子園に来る前にも「いいことをすれば返ってくる」と、豚を水浴びさせ、ニワトリには話しかけながら餌をあげた。ふん尿処理なども積極的に行い「ウン」も味方につけるほか、重い飼料や土壌運搬を下半身強化にもつなげている。自宅では熱帯魚グッピーに癒やされる。父良平さん(46)は「まばたきせずに、じっと餌やりをしている時は不振で悩んでいる時」と笑う。

 自主練も手を抜かない。自宅に帰ると玄関前で学生服の上下を脱ぎ捨て、Tシャツ&パンツ姿で「100スイングと背番号の3回」を欠かさない。最後の3回は逆転好機を想定。「秋田大会決勝で負けている2死満塁とかはイメージしてきたけど、甲子園でホームランすることは考えたこともなかった」。夢は体育教師として命の大切さを教えること。聖地で羽ばたき、新たな教材が加わった。

 秋田・大曲農や岩手・花巻農をはじめ、学校には全国の農業系学校から激励や祝電が数多く届く。支援もある。「ここまで来たら優勝しかない。公立も自分たちだけ。秋田県だけでなく、全国の農業高校を代表して戦います」。9人の雑草が聖地に根を生やし、水を得た魚のように生き生きとしてきた。【鎌田直秀】

 ◆高橋佑輔(たかはし・ゆうすけ)2000年(平12)12月15日、秋田市生まれ。小4に勝平野球スポーツ少年団で野球を始め、勝平中では軟式野球部。中3秋から秋田北シニア。秋田大会で能代との3回戦でもサヨナラ適時打を放つなど勝負強さが武器。特技は空手、水泳。趣味は釣り。178センチ、77キロ。右投げ右打ち。家族は両親と弟3人、祖父母。

 ◆金足農 1928年(昭3)創立の県立校。生徒数は518人(女子255人)。作物、畜産、野菜、果樹、草花を学ぶ生物資源、農業土木技術者を目指す環境土木、農産物などの製造や流通を学ぶ食品流通、公園や庭の知識を習得する造園緑地、調理や被服、福祉を学ぶ生活科学の5学科。野球部は32年創部で部員50人(マネジャー3人)。甲子園は春3度、夏6度目。主なOBはヤクルト石山泰稚、元中日小野和幸ら。学校所在地は秋田市金足追分字海老穴102の4。渡辺勉校長。

 ◆秋田勢の1試合2発 秋田県勢がチーム1試合2本塁打以上を放ったのは、97年夏に熊谷豪(秋田商)が浦添商戦でソロ本塁打を2本打って以来、春夏通じて2度目。2人以上の選手や、走者を置いての2本は初。秋田県勢の夏の本塁打は今大会前まで通算13本で、全国47都道府県のうち少ない方から3番目だった。