金足農・菊地彪吾の必殺技 失敗なし2ランスクイズ

近江対金足農 9回裏金足農無死満塁、斎藤のスクイズで、三塁走者の高橋に続き二塁走者の菊地彪(下)が捕手有馬のタッチをかいくぐり、サヨナラの生還を果たす(撮影・横山健太)

<全国高校野球選手権:金足農3-2近江>◇18日◇準々決勝

 カナノウ旋風だ! 第100回全国高校野球選手権大会で、金足農(秋田)が逆転サヨナラ2ランスクイズで近江(滋賀)に勝ち、84年以来の4強進出を決めた。9回裏無死満塁、二塁走者の菊地彪吾(ひゅうご)外野手(3年)が、斎藤璃玖内野手(3年)のスクイズで、三塁走者に続いて一気に生還した。第1回大会で準優勝した秋田中以来となる決勝進出をかけて、明日20日、日大三(西東京)と対戦する。

 菊地彪がホームベースに、頭から低く飛び込んだ。捕手のタッチより早く、左手を伸ばす。目の前にいた球審が両手を水平に伸ばしセーフを告げると、歓喜の輪が広がった。「三塁を回ったら一瞬でバーンって感じでした。最後はホームベースしか見えなかった。チームメートと抱き合って最高。今までに見たこと、味わったことのない光景でした」。泥にまみれたあごを左手でぬぐい笑った。

 野球部NO・1の俊足。スクイズのサインを確認した時から「サードに転がれば、ホームまで行こうと思いました」。練習試合では2度試み、失敗なしの必殺技。投手が足を上げた瞬間に遊撃手のすぐ後ろまでリード。「(斎藤)璃玖はバントがうまいので信じていました」。ゴロを確認すると「三塁手は背中越しで見えていないので、自分の判断でベースを思い切り蹴りました」。OBでもある中泉監督も「血が沸きました」と興奮するほどの、劇的2ランスクイズを成功させた。

 「彪吾(ひゅうご)」の名前は、アルプス席で観戦した母陽子さん(37)に「強くて、速くて、格好良い」と名付けられた。獲物を狙うヒョウのごとく、猛然とホームベースを仕留めた。中3の運動会では徒競走で優勝。部活対抗リレーでも陸上部に差をつけて野球部を頂点に導いた。高校には電車通学だが、仲間は「本数が少ない電車への滑り込みセーフも得意。危ないんですけれど」と笑う。

 走塁練習はキャッチボールより先に約30分間行う。3カ所のフリー打撃は1カ所をバント専用。シート打撃でも走塁とバント練習を兼ねて徹底してきた。菊地彪は「バントと走塁は自分たちの武器であり伝統。冬期間は凍える手で1時間、バントだけなんて日もあります。練習試合でもやってきた2ランスクイズ。100%セーフになると思いました」と胸を張った。

 84年以来の準決勝は日大三(西東京)と対戦。ユーチューブで映像を見て、憧れてきた先輩たちに追いついた。「ここまで来たら死ぬ気でやる。目標は全国制覇なので通過点。甲子園全体の拍手が背中を押してくれました」。次の獲物にも泥臭く食らいつく。【鎌田直秀】

 ◆金足農の伝統犠打 84年の初出場4強時は1試合平均3・8個の犠打を絡めながら、単打でつなぐ野球で「雑草軍団」と称された。今夏の秋田大会もスクイズを含む18犠打で全5試合を制覇。今大会も鹿児島実で2度、大垣日大戦で1度スクイズを成功。近江戦では逆転サヨナラ2ランスクイズ以外にも、0-1で迎えた5回裏に佐々木大夢外野手(3年)が同点スクイズ。横浜戦との3回戦では本塁打を放った吉田の次打席にバントのサインを出すなど徹底。全4試合で14犠打(1試合平均3・5)で勝ち上がっている。