金足農・吉田輝星、V王手導いた無類の「負けじ魂」

金足農対日大三 完投した金足農・吉田(撮影・梅根麻紀)

<全国高校野球選手権:金足農2-1日大三>◇20日◇準決勝

 第100回全国高校野球選手権大会で、金足農(秋田)が日大三(西東京)を2-1で破り、初の決勝進出を果たした。秋田県勢では1915年(大4)第1回大会の秋田中(現秋田高)以来103年ぶり。プロ注目右腕・吉田輝星(こうせい)投手(3年)が9回9安打1失点、5試合連続の完投で勝利に導いた。今日午後2時からの決勝では、東北勢として春夏を通じて初の日本一を目指し、史上初の2度目の春夏連覇を狙う大阪桐蔭(北大阪)と激突する。

 マウンドに立つ吉田の険しい眼差(まなざ)しが、三塁側・日大三ベンチの1点に注がれた。ロックオンのターゲットは小倉全由監督(61)だった。4回2死一、三塁。カウント1-2。一塁に2度けん制し、セットポジションに入る。真正面に立つ小倉監督を、2度にらんだ。

 打者に向けた視線を小倉監督に移す。再び打者に視線を移し、もう1度、敵将をうかがう。目玉を打者に戻し…けん制。3度目のけん制が一塁から返球されると、間髪おかずにスーパークイック。6番・高木の外角高めに、143キロ直球をぶち込んだ。ボール球ながら完全にタイミングを外して空振り三振。「間」を支配し、ピンチをしのいだ。一気に流れを引き寄せた。

 吉田 小倉監督が走者に「リードを広く取れ」と言っているのが聞こえた。自分が隙を見せたら、すぐ走ってくる。(けん制は)バッターのタイミングも崩れる。一石二鳥。

 心憎い投球術は、百戦錬磨の小倉監督をして感服させた。名将に「自分を見てから、けん制を投げてきた。何だよ! と言わんばかりに。負けん気はたいしたもんですよ」と言わせた。5回には投前バントを二塁封殺し、時には左足の上げるタイミングをずらして幻惑。直球狙いを察知すると、カットボールとツーシームを低めに多投した。9回にギアを上げ、最速148キロを計測し「出そうと思った時に出せた。球の質を意識していきたい」と胸を張った。

 無類の負けず嫌いだ。自宅の部屋にはプロ野球選手のポスターは貼らない。「すごい人たちのポスターを見てると悔しくなる。負けたくなくてイライラする」。冬合宿では、負けない心をチームに必死に植え付ける“鬼役”もこなした。全員が一定のタイムを切らないと終われないランメニューで、みなの3メートル後方からスタート。ペースの落ちた選手の背中を押して脱落者を出さないように、最後尾を走ってもり立てた。

 34年前のOBはレジェンド始球式に登場した桑田氏擁するPL学園との準決勝で8回に逆転され、決勝進出を逃した。吉田も同じく8回に失点したが、反撃を許さず、決勝進出に導いた。「先輩たちの試合は特に意識しなかった。率直に決勝進出できてうれしい。これも何かの縁。第100回大会で、東北勢初の優勝旗を取りたい」。第1回大会決勝で、秋田の先輩が涙を流してから103年。鉄腕エースは、自身が新たな伝説を刻むことを確信している。【高橋洋平】

 ◆球数が多かった投手 金足農・吉田は5試合通算で749球を投げた。最近では14年の今井重太朗(三重)が6試合で814球投げている。98年松坂大輔(横浜)は782球、06年斎藤佑樹(早実)は948球を投げた。