金足農・菊地亮太、吉田の力引き出す女房役の努力

金足農対日大三 秋田県勢として103年ぶりの決勝進出を決め、握手を交わす金足農・吉田(左)と菊地亮(撮影・横山健太)

<全国高校野球選手権:金足農2-1日大三>◇20日◇準決勝

 金足農(秋田)菊地亮太捕手(3年)が、エース吉田輝星の力を最大限に引き出した。キレ味鋭い直球やカットボールで日大三(西東京)の強打線を1失点に封じた。本格的にバッテリーを組み始めた昨秋は捕球ミスを繰り返していたが、今冬の自主練習で成長。秋田大会では無安打に終わった打撃でも、3安打して2-1の勝利に貢献。エースの輝きの陰に、女房役の努力があった。

 菊地亮はマウンドを駆け下りた吉田とハイタッチ。汗と泥にまみれた顔で、2人で笑った。

 「疲労はあったと思うが、今日も苦しい場面では最高の球を投げてくれた。こんなに注目されるピッチャーの球を、甲子園で受けているなんて、本当に幸せものだなあ」

 起床後、同部屋の吉田に告げた。「27個のアウトを取ることに集中しよう。変化球多めで打たせてとろう」。吉田も「任せとけ」。低めに変化球を集めることを徹底した。初回には菊地亮が盗塁を刺して助けた。8回のピンチの場面でも、引っかかって右打者の外角にワンバウンドしたカットボールを、懸命に左手を伸ばし押さえた。

 打者によって配球も変えた。日大三の右の主砲・日置に対しては内角のツーシームを多投。三振を取りたくて、うずうずしている吉田の心境も察知し、時には力いっぱいの直球も要求した。「吉田は150キロ近い直球よりも、自分は138キロくらいの低め直球が一番伸びとキレのある良い球だと思っています。リラックスして投げられているからこそ。ツーシームが内角に決まったことで、外の変化球がとても有効でした」。自信を持ってリードした。

 新チームとなった練習試合。昨秋の県大会でも、速球も変化球も納得いく捕球ができなかった。「毎日、突き指してました」。捕逸も繰り返した。コーチ陣から「お前が成長しないと、チームが成長しないぞ」と言われた。自身が一番よく分かっていた。今冬は打撃マシンを一番遅くして、ミットの芯でとることから始めた。次は140キロ以上に変え、近くから。そして変化球。ワンバウンドの高速直球や変化球を止めて、あざが出来ることもあった。「最初は捕ることで必死でしたが、甲子園ではまわりも見えて、みんなをリードする楽しみも出てきた」。

 150キロを受け続ける代償は、左手人さし指付け根に現れた。「春くらいまでは裂けて血が出ていた。いまは硬くなっているので大丈夫です。でも試合が終わるたびに腫れて、指が曲がらなくなります」。吉田には伝えていない。察知されないように、テーピングもアイシングもしない。縁の下の力持ちを貫く。

 吉田からも「甲子園に来て他の捕手を見て『亮太ってうまいんだな』って分かった。亮太がいるからこそ、自分がいる」と絶大な信頼を得る。試合途中から強く握ることが出来なくなる左手に力を込め、打撃でも3安打。「大阪桐蔭相手でも、感動を与えられるような全力プレーをしたい」。優勝の瞬間、吉田のもとに全力で駆け寄るために。【鎌田直秀】

 ◆103年ぶり決勝 秋田県勢は103年ぶり決勝。都道府県別の決勝進出ブランクはもちろん史上最長。過去最長は熊本県(37年熊本工→96年熊本工)と三重県(55年四日市→14年三重)の59年ぶり。

 ◆公立の決勝進出 秋田県立の金足農が決勝へ。公立校の決勝は07年佐賀北以来11年ぶり。農林業系の高校では台湾の嘉義農林が31年決勝に進み、中京商(愛知)に敗れ準優勝の例がある。