智弁和歌山・中谷監督の挑戦は野村の考え+高嶋の魂

捕手陣にワンバウンドボールを投げて指導する智弁和歌山・中谷仁監督(撮影・磯綾乃)

<高校野球NOW>

シーズンオフ企画の金曜日は高校野球の旬な話題をたっぷりお届けする「高校野球NOW」です。第1回は智弁和歌山・中谷仁監督(39)のインタビュー。阪神、楽天、巨人でプレーし、同校でコーチを務め、今秋から指揮を執っています。来春センバツ出場が当確視される中、中谷監督の挑戦に迫りました。【取材・構成=磯綾乃】

-近畿大会4強でセンバツが確実視される

甲子園の1つの基準になるベスト4に入れたのはいいとしても、準決勝の試合で僕の監督としての力のなさだったり、考え方の甘さだったりで、選手にああいう結果(明石商に0-12で5回コールド負け)を出させてしまった。1つの糧にしていきたいところです。

-今年8月に監督就任が決定した時は

すぐその週に新人戦が始まるタイミングで、自分や監督業がどうこうというよりも、目の前にある公式戦を「さあ、どうしよう」という思いの方が強かった記憶があります。

-実際に監督になって

高校野球の場合は全てをやっていかなければいけない。コーチ時代もバスの運転手だったり(他多くの仕事があり)、もちろんコーチの仕事、バッティングピッチャー、ブルペンキャッチャーと何通りも仕事があって。そこに試合の指揮という大きな仕事が増えた。やることはたくさんある。

-バッテリーは大事

野球はやっぱりバッテリー。僕の野球観でもある部分なので、キャッチャーには特に厳しく言うてます。野村(克也)監督の言葉じゃないですけども「優勝チームに名捕手あり」と。

-野村監督の教えは

大きいですよね。指導する時、1つの言葉のチョイスや、方向性という部分は「野村の考え」が元になってるかなと思います。

-中谷監督は選手に対して「準備が大事」と繰り返す

野村監督がミーティングの中で「野村野球はID野球と言うが、野村野球とはなんやと言われたら『準備野球』だ」とはっきりおっしゃられていた。データを取ることも全ては、その次の試合や相手に対しての準備を行うということ。残って練習することも、数多く走ることも、試合で結果を出すための準備だ、と。

-コーチに就任してから野球ノートを始めた

毎日いろんな気付きを何かノートに書く。プレーだったり練習だったり、学校生活の中で、気付く、感じる、というのが習慣になってくればいいのかなと。これも今まではなかったですが、この時期は特に1日何か1つ刺激を、と思っています。今日も30分程度の武井壮さんの講演映像をテレビでみんなで見ました。人間的成長を促す意味でも、野球だけじゃないことを取り入れるほうが効果があると思うので。

-他にも

電車で通っている子が多いので、本を読みなさいと言っている。僕も本をチョイスして買ったりする。野村監督の本は数多く所有していますし、部室に置いています。「中谷文庫」じゃないですけど。野球の本だけでなく、多岐にわたって。だからOBやファンの方で「高校生はこれ読んだらいいよ」と思うような本があれば、学校へ送ってもらったら、ありがたく選手たちに読ませます(笑い)。

-選手が自分で考えて練習する時間を増やした

智弁和歌山で野球が終わって欲しくない、と。たとえレギュラーになれなくても、次のステージ、大学や社会人で活躍できるチャンスはあると思う。言われたことしかできない、指示を待つのではなく、自ら何かを得ようと動く。そういう部分を大事にしてもらいたい。智弁和歌山の選手は数年前とちょっと感じが変わってきたなって思わせたいし、言わせたい。どんな組織の中に入っても、次のステージで、評価される人間を目指してほしい。

-中谷監督が目指す指導者像は

僕が元プロ野球選手ということで目立ってしまう部分はあるのですが、これからの未来ある子どもたちと接する立場にいる。言うなら、野球人の中谷仁という部分はもう基本的に終わったと。一番近くで高校生を支える裏方的な、サポート役に。智弁和歌山で学んだことが大きいと言えるような人間を1人でも多く輩出できるような、そういう学校にしていきたい。もうほんまに智弁が好きなので(笑い)。野球と智弁が好き。「智弁和歌山の選手は」と評価されることに喜びを感じてサポートをしていけたら。どうしても僕の経歴が目立つのかもしれないですが、本当に裏方という気持ちで、これからの智弁の選手、生徒たちをサポートしていく立場になれたらいいのかなと思います。

◆中谷仁(なかたに・じん)1979年(昭54)5月5日、和歌山県生まれ。智弁和歌山では96年春に準V、97年夏に全国制覇。同年ドラフト1位で阪神入団。05年オフに楽天へ移籍。11年に戦力外となり、12年から巨人でプレーも同年に現役引退。通算111試合、28安打、4本塁打、17打点、打率1割6分2厘。17年春に智弁和歌山の専任コーチに就任し、今年8月監督に。現役時代は183センチ、95キロ。ポジションは捕手で、右投げ右打ち。