複数競技をやろう!鈴木大地長官 高校野球改革案2

高校野球界が抱える現状について、熱い思いを語る鈴木大地スポーツ庁長官(撮影・小沢裕)

鈴木大地スポーツ庁長官(52)が高校野球を語った。猛暑、球数制限、野球人口減少など、アマチュア球界が直面する問題を受け、具体的に提言。

各都道府県で第101回全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)が本格化するのを前に、スポーツ施策をつかさどる行政機関のトップとして「選手ファースト」の視点を示した。【取材・構成=荻島弘一、古川真弥】

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体に無理してでも、仲間のためにプレーする姿は美しい。それこそ、青春だ。観客も自己犠牲に涙する。そんな考えに染まっていないだろうか。

鈴木長官(以下、鈴) 指導者の中には「高校で燃え尽きたい人がいるんだ」とか、「投げろ。燃え尽きろ」とか言う人がいる。そういう思いを持っている高校球児もいると思う。そのような風潮自体、私はメディアとか、社会とかの環境がつくったものだと思う。

ばっさり断言した。だから、高校生に直接訴える。

鈴 高校生には「自分の可能性、能力を過小評価しないでくれ」と言っている。もっと楽しく野球をやれる人生を提供しないといけない。もし、高校時代に無理しなければ、大学でもっと活躍できたかも知れないし、社会人野球に行けたかも知れない。あるいは、働きながら週末に野球を楽しめる人生を送れたかもしれない。

そもそも、1つの部活、競技だけやるのが絶対ではない、と強調した。

提言(4)複数競技をやろう

鈴 アメリカのように二毛作、三毛作でいろんな競技をやればいいと思う。スポーツ庁は「J-STARプロジェクト」(注)を推進している。野球には、いろんな人材が固まっている。野球では補欠でも、やり投げに転向したら世界で戦える。そういう人が、たくさんいるのではないか。高校球児は高野連だけのものではない。学校のものでもあるし、日本のものでもあるし、いろんなスポーツのものでもある。若い人には、もっといろんな世界を見てもらいたい。

(注)J-STARプロジェクト オリンピック・パラリンピックでメダル獲得の潜在能力を有するアスリートを発掘するプログラム。主に中学・高校世代を対象に、スポーツ庁が測定会参加者を公募。さまざまな競技の適性者を見つけ、トップレベルの合宿にも参加してもらう。

多様な選択肢を見つけ、豊かな人生を送るきっかけにして欲しいと考える。

鈴 高校球児は、高校野球しか環境がないと思ってしまっている。「もっと違う環境があるよ」と伝えたい。複数競技をやる外国の事例も踏まえて現場では取り組んで欲しい。

スポーツ庁は部活動改革にも取り組んでいる。昨年3月にガイドラインを制定。1日の練習時間は2時間(休日は3時間)とし、週休2日を掲げた。ところが、野球界からは「チームによっては何百人もいる。2時間で終わるのは難しい」と反論が出た。「チーム力が下がる」という声も根強い。ここでも、その考えは絶対ではないと切り返す。

鈴 もっと効率的に練習できるのでは。部活を短くすればどうなるか、誰も検証していない。みんな「弱くなる」「下手になる」と言うが、間違いなく、やる気は増す。練習に対する集中力も上がる。何より、ケガが少なくなる。そういう意味では、選手層の厚さにもつながっていくと思う。

大局から続けた。

鈴 部活以外にも、学業はじめ、いろんな活動に時間を費やせる。総合的に子どもを成長させていく、教育していくという観点は絶対に必要。

疑問が湧く。自身は中学・高校の頃、1日、どれぐらい練習していたのか。1日2時間の練習で金メダリストになれるのか。「多い時は1日4時間、週休1日。でも、私は部活ではなくて、スイミングクラブに月謝を払い、好きで行っていたので」と苦笑いで答えた。「水泳は(幼少期に)ある程度、集中してやらないといけない」とも言った。ただ、どんなに練習しても、全員が世界で戦えるわけではない。世界の頂点に立ったからこそ、身をもって分かっている。少なくとも「そのスポーツが好きで始めたのに、練習が休みだと喜ぶ。部活が苦痛でしかなくなっている」という事態は改善すべき。それには、指導者の改革が必要だと続けた。(つづく)

◆鈴木大地(すずき・だいち)1967年(昭42)3月10日、千葉県習志野市生まれ。7歳で水泳を始め、千葉・市船橋高3年のロス五輪に出場。順大4年時のソウル五輪100メートル背泳ぎは、予選3位から決勝で潜水スタートのバサロを伸ばす秘策で逆転、日本水泳界に16年ぶりの金メダルをもたらした。92年の引退後は米国でコーチなどを経験し、00年から母校順大に戻り、水泳部監督。日本水泳連盟会長、日本オリンピアンズ協会会長などを経て、15年10月に初代スポーツ庁長官に就任した。