成田西陵・佐々木「僕は1人じゃない」/コラム

成田西陵・佐々木は今年2月に亡くなった養護施設の副園長さんに買ってもらったTシャツを今も大事に着ている(撮影・保坂淑子)

<令和のなつぞら>

<高校野球千葉大会:千葉日大第一5ー4成田西陵>◇11日◇1回戦◇ZOZOマリンスタジアム

打席に入る前、成田西陵(千葉)の4番佐々木直人内野手(3年)は空を見上げ心の中でつぶやいた。「副園長さん、見てくれているかな」。1回2死三塁。積極的に振り、狙っていた真っすぐを右中間に運び、先制打をたたき出した。

佐々木は両親の離婚をきっかけに5歳から千葉県内の養護施設で生活している。幼い頃から母親代わりに面倒を見てくれたのが副園長の越川玲子さん(享年84)だった。今年2月。急性大動脈解離で急逝。高校進学後、野球用具や遠征費などを工面してくれていた。「最後の夏、ユニホーム姿を見せたい」。願いはかなわなかったが、活躍する姿を天に届けた。

野球が佐々木を変えた。3年前には妹の唯さん(享年12)が不慮の事故で他界。気持ちを落とした時、背中をポンと押されたような感覚を覚えた。「妹が応援してくれている」。不思議と勇気が湧いた。「この時のように、頑張っていたら副園長が背中を押してくれる」。そう信じ涙を拭いた。何より、チームメートが「元気を出せ」と声をかけてくれた。練習に打ち込み4番としてチームには欠かせない存在に成長。中西威史監督(53)は「こういう境遇でも野球を続けられる。そんな道しるべになったのでは」と見守った。

佐々木は、自分の境遇を決して不幸だと思ったことはない。幼心に「両親に会いたい」という寂しさも野球に打ち込み、紛らわせた。大好きな野球を通して仲間ができた。背中を押してくれる人もいる。「僕は1人じゃない」。高校野球で誰よりも強い心を手に入れ、再び次の人生を歩き出す。【保坂淑子】