八戸学院光星 6点差逆転されても春夏通算30勝

八戸学院光星対智弁学園 接戦を制した八戸学院光星ナインはアルプススタンドへ笑顔で駆けだす(撮影・足立雅史)

<全国高校野球選手権:八戸学院光星10-8智弁学園>◇12日◇2回戦

八戸学院光星(青森)が智弁学園(奈良)との打撃戦を制し、春夏通算30勝目を挙げた。8-8の9回2死満塁で、8回の右翼守備から途中出場の沢波大和外野手(3年)が一塁強襲の2点適時打を放ち試合を決めた。目の前で近藤遼一内野手(3年)が敬遠され「絶対に打ってやる」と、闘志を前面に出しての決勝打だった。3回戦は15日の第4試合で、聖光学院(福島)を3-2で下した海星(長崎)と対戦する。

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同点の9回表。4安打4打点の3番近藤が敬遠されて2死満塁。160センチ、61キロ、甲子園初打席に立った沢波の腹は決まっていた。「ストレートが来たら初球から打つ」。相手投手は1年生。「絶対に負けたくない」。初球のインコース寄りのストレートを強振する。「少しだけ詰まりましたが、芯に当たって気持ち良かった。一塁がはじいてくれと思って走りました」。

一塁手がたまらずはじき、ボールはファウルグラウンドを転がる。2者が生還する。八戸学院光星のベンチは大興奮の盛り上がりに、沢波は高く左腕を掲げた。「監督には、気持ちで負けるなと言われてました。甲子園ではまだ打席がなかったですが、打席に立ちたかったです。打ちたかった」。

強い気持ちでチャンスを待っていた。沢波には病で他界した父俊也さん(享年49)がいつも心の中にいる。打席に入る時、「見といてくれ」と心の中でつぶやいた。そして一塁ベース上では「打たせてくれてありがとう」とお礼を言った。

仲井宗基監督(49)は「ずっとけが、病気で苦しみ、それを乗り越えて控え以上の存在になった。その思いが今日の結果を生んだと思います。打撃も長打はなくとも非常にシュア。昨秋県大会でもサヨナラ打を打っています。欠かせない」と、絶大の信頼を寄せる。

1回に近藤のアーチで先制し、6回表までに6点リード。それが6回裏、不運なイレギュラーヒットなどもあり、打者12人で7点を奪われて逆転された。それでも8回、誉(愛知)との1回戦で令和1号の満塁弾を放った下山昂大内野手(3年)の同点打で追い付いた。互角のまま、8回裏2死満塁の大ピンチは2番手右腕・山田怜卓(3年)が抑え、完全に流れを引き戻した。

最後、沢波の打席では、三塁走者の山田が祈っていた。「沢波はいつも、みんながくつろいでいる時に、1人だけ外で素振りしていました。絶対に打つと信じてました」。

160センチの沢波は甲子園通路のお立ち台で、汗まみれの顔で笑った。「こんな景色、想像してませんでした。すごいですね」。報道陣が見上げる中で、上からの眺めを楽しんだ。ついさっきまでは、甲子園で打席に立てなかった控えの背番号「18」。それが、一振りでチームを3回戦進出に導いた。ヒーローの誕生だ。【井上真】

◆通算30勝 八戸学院光星は2000年夏の甲子園初勝利(当時は光星学院)から20年で春夏通算30勝に到達。青森勢初の大台到達で、東北勢では仙台育英(宮城)の46勝、東北(宮城)の42勝に次ぐ。仲井監督は22勝目。