高校生対象のトライアウトをやれないか/あゝ甲子園

10年11月、トライアウトを視察する西武編成部の潮崎哲也氏

<あゝ甲子園>

センバツに続き、夏の甲子園も戦後初の中止が決定した。各所に及ぼす影響は計り知れない。「あゝ甲子園」と題し、人々の思いとともに紹介していく。第1回はプロのスカウト活動とドラフトに与える影響について。西武潮崎哲也編成グループディレクター(51)ロッテ永野吉成プロ・アマスカウト部長(51)らに聞いた。

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アマ球界で活動休止が広がり、NPB各球団もスカウト活動の休止を余儀なくされた。最前線の担当スカウトが影響を受けている。西武は4月4日から全員が自宅待機。夏の甲子園も中止となり、今秋ドラフトはどうなるのか。潮崎氏は「担当スカウトの思い入れ、意見が例年以上に大きくなる」とみる。指名候補のプレーを担当外も含む複数スカウトで見るクロスチェックで、他の候補との優劣を判断する。このままでは、その機会が作れない。昨秋までの実戦を見ている担当スカウトの評価が、より重要となる。

ロッテ永野氏は「遊びの部分ができなくなる」と懸念する。試合を真剣に見るだけがスカウト活動ではないと強調。ついでのように立ち寄ったり、あえて練習終わりに顔だけ見せたり。そんな“遊び”の積み重ねが監督との関係を築き、思わぬ発見をもたらすこともある。今後実戦が再開されても、視察機会が限られるのは確実。「その1回だけかも。丸裸にする感覚で行かないといけない。休止明けの選手を過小評価する危険もある。スカウトは見極めが求められる」。

視察機会が減り、ドラフトは高校生の指名が減るのか。潮崎氏は「下位や育成の判断は難しくなる」と推測。高評価の上位候補より、下位候補の方が影響を受けやすい。ただ、こうも言った。「下位の高校生は3、4年計画で指名する。ポテンシャル重視で、今の調子は関係ないところもある」。永野氏も同意見。「高校生は伸びしろ重視。指名しづらいことはない」。

とはいえ、最後の夏にブレークし、急きょ指名候補に挙がる高校生もいる。このまま実戦機会がなければ、逸材が埋もれるかも知れない。両氏とも、せめて各都道府県で大会が開かれ、無観客開催でもスカウト視察が認められればと願う。NPBも今後、日本高野連と協議する考えがある。ただ、大会を開けない都道府県もあり得る。救済案として、プロ志望届を提出した高校生を対象にトライアウトのような機会を設けられないか。永野氏は「移動を伴う難しさがある。やり方など議論しないといけない。でも、案は出てくるのでは」と予想。潮崎氏は「高校生にも、プロにもありがたい。意見は合致すると思う」と期待をにじませた。

甲子園中止がスカウト活動に影響を与えるのは間違いない。高校生の指名にも影響が及ぶ可能性はある。だが、指名回避続出まではなさそうだ。コロナ禍で全体の指名人数がどうなるかの問題はあるとしても、球児が望みを捨てることはない。エールで締めたい。

潮崎氏 苦しい状況でも今できること、今しかできないことをやる以外にない。見ている人は見ている。志を高く、大きな夢を持って頑張ってもらいたい。地道な努力は生きてくる。我々は、そういうところを見たい。努力できる人間というのは大きな武器になる。

永野氏 自分で考え、行動に移し、自分の中で精査する。プロに行こうと思う子は、自主自立が一番大事。今は、それを地でやらなきゃいけない状況だが、数年後、もしかしたら今年中に実を結ぶきっかけの1年だと思う。与えられた時間を絶対無駄にしない気持ちで取り組んで欲しい。【古川真弥】

◆高校卒業後も野球を続けたい3年生に実戦機会を提供する案として、ソフトバンクの永井智浩編成育成本部長兼スカウト育成部長(44)は秋以降の練習試合出場を提言する。公式戦ではないが「できる範囲で実戦の機会を与えてほしい。3年生が一番アピールする期間がほぼゼロに近かった」と訴えた。

強豪校も活動休止が続く。「この3カ月の遅れ、ズレが出てくる。今まで夏だったのが、秋にパッと伸びる子が出てくるかも分からない」と、急成長の選手を知る機会になると期待する。例年は3年生は引退後、新チームとは別で練習を続けることがほとんど。今年は控え部員中心の練習試合でも構わないので出場して、大学、社会人のスカウトも視察すれば、進路の選択肢を増やすことにもつながるとみている。