<高校野球秋季北海道大会:北海1-0旭川実>◇11日◇決勝◇札幌円山
病魔に打ち勝った男が北海に10年ぶり秋王座を運んだ。0-0の8回2死、北海の3番江口聡一郎右翼手(2年)が、大会屈指の好投手、旭川実のエース田中楓基(2年)から右翼に先制&決勝ソロ本塁打を放った。7月に上肢がしびれ、肩や腕に痛みが出る「右胸郭出口症候群」で手術も、驚異的な回復力で秋季全道から初めてベンチ入り。今大会2本塁打で完全復活した背番号9が、来年の球春を待ち焦がれる。
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打った。こけた。北海の背番号9は視線を独り占めしてダイヤモンドを駆け抜けた。0-0の8回2死走者なし。「真っすぐに絞っていた」。江口は初球をフルスイング。外角高めの直球を捉えた。「あそこまで飛ぶと思っていなかった」。打球の行方を追いかけ、一塁を回ったところで転倒。右翼芝生で弾む1発に、立ち上がり、両腕を天に突き上げ、仲間のもとに飛び込んだ。
8回まで旭川実エース田中楓の前に4安打と打線は沈黙。自身も3打席凡退で迎えた打席だった。球数100球を超えた7回以降の小さな異変を感じ取った平川敦監督(49)から受けた指示は「初球から甘い球が来たら狙っていけ」。指揮官の注文に“一発回答”した江口は「良い投球をしていた木村を早く楽にさせたかった」と胸を張った。
昨秋は足の故障で2カ月野球ができず、今年6月には「右胸郭出口症候群」を発症。新型コロナウイルスによる自粛明け最初の練習日に襲った右肩の異変。日に日に握力が低下し「シャープペンシルを持つのがやっと」。来年を見据えて7月に手術し、退院後はすぐに練習を手伝った。今でもリハビリは続けるが、想定以上の回復の速さで秋全道に間に合った。
母晴美さん(47)は「この子には野球の神様はいないんじゃないかなと思った。やめてしまうかも」。懸念をよそに1週間の入院生活中にも江口から弱音は聞かなかった。「みんなの輪の中で野球をやれていて良かった」。この日家族3人で観戦した晴美さんは優勝よりも、本塁打よりもその姿に胸を打たれた。
苦しんだ先の秋王座。江口は「父と母に1つずつ渡せます」。8日準々決勝の札幌日大戦の人生初本塁打とこの日の決勝ソロ。両親に手渡し、リビングに飾る予定の2つの記念球に誓う。「もう1段階、2段階成長できるように練習したい」。励ましてくれた仲間、支えてくれた家族。恩返しをする舞台には続きがある。【浅水友輝】