土佐塾エースは「両投げ両打ち」目標は甲子園&プロ

相棒の6本指グラブを手にする両投げ両打ちの土佐塾・寺田

<高校野球NOW>

土佐の異色の球児が、高校野球界をにぎわせている。土佐塾(高知)のエース寺田啓悟投手(2年)は全国的にも希少な両投げ両打ちで、昨秋の公式戦でデビューして話題の的に。県内にはプロ注目の高知・森木大智投手(2年)もいるが、劣らずアツイ存在になりそう。語るよりも映像が全て。皆さん、動画のチェックもお願いします。高校野球は6日に練習試合が解禁され、19日にはセンバツも開幕。プロに負けじと本格的な球春到来です。【取材=望月千草】

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オンリーワンのストーリーは父の勧めから始まった。右利きのハンドボール選手だった父義人さんが、スポーツにおける左利きの優位性を感じていたことだ。元来は右利きの寺田は、左投げ左打ちで野球の指導を受け、後に右も会得した。「どっちが良いか聞かれた時に覚えてないんですけど、どっちもやりたいと答えたみたいです」。物心がつく前、保育園の頃からキャッチボールは両投げ。以来、両投げ両打ちスタイルを10年以上、貫いてきた。

準備方法はシンプルだ。両投げ用の指が6本入る愛用グラブを使い、左右の筋肉のバランスや感覚を確かめながらウオーミングアップする。「日によって左右の筋肉のバランスが違ったりするので苦労はします」。キャッチボールは周囲より5分ほど多くかかる。片腕に違和感を覚えると、数を増やして感覚を微調整。体の動きを意識し、シャドーピッチングを重ねて左右の状態を整えていく。

左投げ左打ち、左投げ右打ち、右投げ右打ち、右投げ左打ち。4つの“顔”にそれぞれの魅力がある。右腕としては最速138キロ。「右は球種も多いし、左より球速が出るので安定感があります」とエースとしての生命線だ。左の最速は128キロ。「左はフォーム的に見づらい。打ちにくさがあると思う」。

登板前は左右で準備し、相手にどちらでくるのか分からせない。右打者には右、左打者には左で投げるといったパターン化はしない。一塁走者がいる場合は右打者に左で投げたり、状況、相手を見ながら切り替え、「たまに」意表を突いた心理戦を仕掛ける。打っても「左は右より飛距離が出る。右は相手の利き腕によって変更できるので得です」とこちらも変幻自在だ。

メリットは多い。「自分がタイミングを外そうとしなくても打者が合ってなかったり。右で投げて左を挟んだりすると、肩肘は楽です」。負担を分散でき、左右交互による連投も利く。デメリットは「練習量が倍になることくらいです」と苦と捉える様子はない。

寺田は唯一無二の個性を貫くつもりだ。「両投げ投手としてプロに行きたい思いがあるので、これしかないかなと。自分は体が大きくない。人と違うことをアピールしていかないとダメだと思う」。目指す未来があり、目の前の目標がある。「春の大会で四国大会に出るのが目標。最後の夏は甲子園を目指したい」。個性で戦い、名を残す。球春到来はまもなくだ。

◆寺田啓悟(てらだ・けいご)2003年(平15)12月20日生まれ、高知市出身。五台山小2年時に五台山レッズで野球を始め、4年から高須ZIONに所属。土佐塾中では軟式野球部で3年秋に高知県選抜。土佐塾では1年夏からベンチ入りし、2年秋からエース。50メートル走は6秒前半、遠投95メートル。高校通算本塁打は右打席での1本。最速は右が138キロ、左は128キロ。168センチ、68キロ。両投げ両打ち。

◆両投げ投手 15年6月、米大リーグに20年ぶりの両投げ投手が登場。アスレチックスのパット・ベンディットがレッドソックス戦でメジャー初登板し、2回1安打無失点と好投。本来は右利きで、3歳の時に左でも投げ始めたという。同年にメジャー初勝利。

日本のプロ野球で、1軍登板したのは88年に南海に入団した近田豊年(明徳-本田技研鈴鹿)だけ。同年4月14日ロッテ戦に登板し、1回1安打1失点。下手投げの右でも投げられたが、利き腕の左だけで投げた。1軍登板はこの1試合のみ。

近年の日本のアマ野球では、立大の赤塚瑞樹(現BC・信濃)が19年秋の東大戦でリーグ戦デビュー。右投げのみで1回を3者凡退に抑えた。

公認野球規則では両投げ投手は投球前にどちらの手で投げるか宣言する必要がある。

◆秋の試合成績

<県ブロック大会>

1回戦 岡豊 右投げで180球、9回4失点完投

準決勝 高知商 両投げで133球、9回1失点完投

決勝 高知中央 6回から登板し右投げで3回2失点

<県大会>

2回戦 宿毛工 両投げで9回2失点完投

準々決勝 高知工 両投げで10回5失点完投し、右打ちで2安打、左打ちで1安打

準決勝 高知 左腕違和感のため右投げ右打ち、5回1/3を9失点

3位決定戦 高知中央 遊撃で先発して8回2死二塁から救援登板し、右投げで1球で打ち取った

<どっちなの寺田くん?>

歯磨き 右手

文字 右手

サッカー 両蹴り。「遊びでやる時ですが」

バスケ シュートは右手

食事 右手。「お箸は基本右だけど、どっちでもいけます」

わびすけではない 人気漫画ドカベンには両投げの「わびすけ」こと木下次郎が登場するが、あだ名で「呼ばれたことはありません」

デビュー戦 昨秋ブロック大会の高知商戦が、両投げ両打ちで初の公式戦で、9回1失点、133球完投。「試合とかでも使えるようになったのは高校になってから」

知名度 小4年時は両投げの二塁手と投手。地元紙で取り上げられ、後に全国ネットのテレビ局でも取り上げられた。