想像のはるか上を突き抜ける気迫に涙…日大三魂の走りに持っていかれた感情

日大三冬の強化合宿の朝練で3年生(右)の力を借り、坂道を駆け上がる日大三ナイン(撮影・青山麻美)

<We Love Baseball>

走り過ぎる集団。荒い息遣いが遠のく。と、巻き起こった風が冷気になり顔をなでた。

薄暗い中でぼうぜんと、駆け上がる野球部の塊を見送った。想像と違う。そのはるか上を突き抜ける、感動する気迫に、涙がにじんできた。こんなにも一心不乱に、誰も見ていない体育館の裏を、無我夢中で走る。そして引っ張る3年生の形相に、強く心打たれた。

冬の強化合宿終盤、クリスマスイブの朝6時前。東京・町田市にある日大三の体育館裏のおよそ100メートルの坂道を1、2年生が駆ける。約1キロのコースはタイム設定されている。3グループに分かれ、遅い順にスタート。終盤のこの坂は心臓破り。

引退した3年生が坂道で、下級生の腰ベルトをつかみ引っ張る。それは補助、伴走とはまるで違う。息も絶え絶えの下級生を、力みなぎる3年生は、ベルトをつかみ引き寄せ、すさまじい馬力で引く。引きずる一歩手前だ。「脚、上げろ」「腕、振れ」「監督さんのところまで、監督さんのところまで」。励ましながら一心に駆ける。どとうの塊が風になって走り抜けた。

記者の性は悲しい。予断を持って現場に立つ。経験が邪魔をして、先の展開を無意識に予想する。そんなしょうもない56歳の顔を寒風がたたき、目が覚めた。「これが日大三野球部か」「これこそ部活か」。

小倉全由監督(64)は坂の上から見ている。「まだ暗い中ですからね。誰か倒れていないか、それだけが心配です」。そして、笑いながら「住民の方はまだ寝てる。坂道はなるべく静かにな、と言ってるんですよ」と続けた。

極限まで激しい部員と、大きな目で全体を見る監督。そして実はもっとも熱く、真冬に燃える小倉監督だ。眉毛を凍らせグラウンドに立ち、昨日の自分を超えろと言い続けた。久しぶりに合宿最終日に訪れた敏子夫人(65)は「子どもたちは本当に頑張りました。どうぞ、ご自宅で褒めてやってください」と保護者にあいさつした。こうして日大三野球部は成り立つ。

記者は黒子だ。自分を消し、目の前の事象を観察する。そう考えてきたが、坂道の一瞬は違った。感情を持っていかれたことが、譲れないトピックだった。

後日、同行したカメラマンに言われた。「坂道取材の後『会社に入って良かった』と言ってましたね」。えっ、そんなこと言ったのかと、恥ずかしかった。記者30年。高校生にこんな気持ちにさせてもらい、うれしかった。「会社に入って良かった」は、実はこう言いたかったと今、思う。「記者になって良かった」。

また浴びたい、あの疾風を。真冬の早朝、あの坂で。【井上真】