【センバツ】彦根総合、舞いあがれ!「ねじと一緒でコツコツと」東大阪の元社長がかなえたドラマ

彦根総合・松本隆理事長(撮影・柏原誠)

<センバツ高校野球:光2-0彦根総合>◇22日◇2回戦

18日の開会式。彦根総合(滋賀)の松本隆理事長(78)は入場行進曲「アイラブユー」を聞きながら、まぶしそうにグラウンドを眺めていた。22日は甲子園で初の試合。松本さんが甲子園で高校野球観戦するのは初めてだ。「いいもんですな。プロ野球とは全然違って」と穏やかな表情だった。

彦根総合は専門学校、女子校を経て06年に共学になった。野球部創設は08年。3年ほど前、野球部強化の旗振り役になったのが同理事長だ。野球は門外漢だったが、県内で実績のある宮崎裕也監督(61)を口説き落とし、寮や専用グラウンドも新設。サポートを惜しまなかった。何より宮崎監督と「理念を共有できた」ことが短期間での強化成功につながった。学校から離れたグラウンドにもよく顔を出す理事長は「監督にホレています。あんな人に出会えて幸せですわ」と感謝する。

理事長の家業は彦根市のねじメーカー。東大阪市にも工場を持ち、自宅のある彦根から2時間半かけ、20年以上通った。まさに、現在放送中のNHK朝の連続テレビ小説「舞いあがれ!」と同じ舞台で戦っていた。当然、ドラマは毎日楽しみに見ている。

「ドラマは地元、東大阪の町工場を活性化するとなっていますね。想像しなかった展開です。ねじ産業は年間1兆円あったんですが、だいぶ変わりましたね。でも今回の甲子園で、ねじ関係の会社から寄付金が届いたのがうれしかったですね。びっくりしました。ホンマかいなと」

第3代理事長として学園経営者になったのが約20年前。専門学校から経営改善のために高校に転じてまだ間もないころ。今では県内唯一の総合学科を備えた高校として人気になり、今年の募集定員は245人。介護福祉、デザイン、製菓、スポーツなど多様な分野で、職業選択を視野に入れた学習ができる。

「社員を大事にするように、生徒も大事にしたい。実力も体力もつく学校にしたいんです」と、生徒1人1人を熱心に見つめる。自身は中学3年の時、実家と工場が火事で焼失したことで高校に進めなかった。生徒全員に高校を卒業してほしいと強く願い、必ず「卒業証書、大事にせえよ」と伝えてきた。

「甲子園に行くという夢は、勝負の世界ですよ。ねじの商売をやっていてよかったと思う。ものすごい厳しい世界です。コツコツといい品物を作って、納期をきちっと間に合わせて、もまれて、もまれて。目的を達するために1円20銭、30銭の品物で、何十億になるわけですから。気が遠くなる話です。厳しいところでやっていたのが、今回の野球の要因かなとも思う。細かいことをやりながら足元をしっかり見て」

昨年他界した京セラの稲盛和夫氏が主宰する「盛和塾」で長年、経営のイロハを学んだ。昨秋、甲子園出場を願って墓前にも赴いた。「思ったことをやれ。できると信じてやれ。毎日、熱い思いを持ってやれ」-。稲盛氏から授かった金言の言葉は、学園経営にも生かしている。商売と同じく「継続する」がモットー。宮崎監督も同じ思いを持って、選手に我慢の大事さを説いている。

ドラマの主人公一家は技術力を生かして、困難を乗り越えながら小さかった工場を成長させていく。松本理事長の半生とも重なる。「舞いあがれ!」の主題歌アイラブユーは、初の甲子園をかなえた今大会の入場行進曲。ドラマのように、運命的なタイミングだ。

朝ドラは31日に最終回を迎えるが、ねじから始まった理事長の物語はまだまだ大きく展開していくことだろう。【柏原誠】