2020年冬の強化合宿から、23年春の退任までの3年間、小倉全由前監督(66、以下小倉監督)を中心とした日大三高野球部を継続して取材・撮影してきました。小倉監督の退任をめぐる心の動きを中心とした動画「日大三高・小倉全由前監督の勇退に密着」を、10日20時に日刊スポーツ野球チャンネルで公開しました。
当時の小倉監督、三木有造部長、白窪秀史コーチのご理解をいただきながら、長期にわたり取材・撮影できたことに深く感謝するとともに、三木新監督、白窪コーチ、中島健人新部長の新体制で動き出した日大三高野球部の今後を、継続して取材していく考えです。
動画「日大三高・小倉全由前監督の勇退に密着」【日刊スポーツ野球チャンネル】はこちら
3月22日、町田の日大三高グラウンドには、149人のOB・OGが集まった。小倉監督のノックを受けるため、そしてその雄姿を見届けるために、多くの卒業生が集まり、スタンドには同校の吹奏楽部とチアリーダー部が勢ぞろいした。
小倉監督の「かつお(元選手の愛称)~、エラーしたらただじゃおかないぞ~」に、見守るOB・OGがどっと笑う。現役時代、監督と選手の勝負だったノックはこの日、かけがえのない白球となり、元選手は惜別の1球を呼ぶ。「へい、監督さん」。
笑いに包まれ、スタンドから吹奏楽部とチアリーダーが大声援を送る。小倉監督は関東第一での12年間と合わせ、38年間の高校野球監督生活を終えた。ノックが終わり、それぞれの代で小倉監督を囲み談笑する。順番を待ついくつもの輪ができた。
グラウンドに安らいだ空気が流れる中、森龍馬さん(27=明治安田生命・2013年度卒)のつぶやきは、おそらく全卒業生の気持ちを代弁していただろう。「僕たちには戻ってくる場所があります。本当にありがたいです。もう、泣きそうです」。
その横顔はりりしく、言葉とは裏腹に涙の気配はない。しかし、絞り出した声はかすかに震えていた。視線の先に、小倉監督の楽しげな顔がある。感謝とさみしさと、濃淡のコントラストの中、大切な時間はゆっくり過ぎた。
小倉監督は最後の一滴まで、三高野球部に情熱を注いだ。やり抜いた。あとは三木新監督、白窪コーチ、中島新部長に安心して託す。
4月1日、退寮する小倉監督を、三木新監督が見送る。寮の前の坂道を上がった道路の両側に、選手が並んだ。花道に涙はない。「頼んだぞ」。小倉監督の言葉に、選手もマネジャーも笑顔。みんなで笑って見送る。この直線道路を右に曲がると、もう小倉監督の愛車は見えなくなる。
小倉監督の時代は終わった。球場横を愛車が走り抜けた。何事もなく淡々と、三木監督、白窪コーチ、中島部長、村井コーチが指導を再開した。
新入生が入寮する。その新入生や保護者を案内していた部員の1人は心境を、飾らない言葉にした。「監督さんがいなくなってさみしいです。でも僕は、小倉監督と、三木監督の両方の監督さんの指導を受けることができて、うれしいです」。
午後2時、新入生がぎこちなく集まり、緊張の顔つきで1人ずつ自己紹介をはじめた。みんなで拍手で迎える。最後に、主将二宮士内野手(3年)が歓迎の言葉を送った。
二宮 主将の二宮です。わからないことは、2年生でも3年生でも、誰でもいいから聞いてください。僕たちも、そうやって上下関係なくやってきました。これから、自分たちは3年夏の優勝を目指して、4カ月、一生懸命にやります。よろしくお願いします。
あいさつの最後、二宮主将は新入生に向かって、両手を太ももに添えて、丁寧に頭を下げた。これが小倉監督がつくってきた日大三高野球部だ。上下関係のない、一体感を実現するため、腐心し続けてきた日々の結晶が、さりげない言動に現れる。
そこに小倉監督はいない。姿はないが、小倉監督の「熱い気持ち」は、確かにある。
小倉監督から自然体でバトンを受けた三木監督は、監督初日を終えて言った。
三木監督 小倉監督がまだ続けて、自分はずっと部長として、小倉監督の終わりまでやる気持ちでした。ずっとそう思ってきて、こうした形で監督を引き継ぐとは思いませんでした。でも、今は気持ちの中に何の変わりもありません。これまでと同じです。早く、周囲が落ち着いた中で、練習に集中したいですね。
節目を超え、白球を追う日大三高野球部の日常は続く。根底に流れるものは、今までと変わらない。熱く、一生懸命に。誰からも応援される日大三高野球部として、夏をひたむきに目指す。