<「ゴールドラッシュ」アマチュア選手の今後>
「ゴールドラッシュ」と化す日本人アマチュア市場を展望する連載企画第6回は、海外へ選手たちを送り出す側にスポットを当てる。
高校野球の名門、智弁和歌山OBの武元一輝投手(21)が今年7月、アスレチックスにドラフト19巡目で指名を受けた。夏の甲子園に2度出場した逸材は23年、米・ハワイ大に進学し、MLB入りの夢をつかんだ。超高校級選手を輩出してきた智弁和歌山の中でも、主力選手がいきなり海外の大学に進むのは記録にない。当時、中谷仁監督(46)は、どんな思いで武元をアメリカに送ったのか。指導者としての思いを聞いた。(随時連載)
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選手の才能、性格を見ぬき、どこで輝かせるのか。中谷監督は「どこで野球をやるかではなく、どういう思いをもって取り組むか。成長を促すことが教育です」と、武元のハワイ大進学の理由を口にした。結果的にはMLBドラフト指名をつかんだが、その根底にあるのは「学び」だった。「武元の性格をひと言でいえば天真らんまん。高卒でプロに入り、厳しい世界に入るにはまだ甘えがあった。身長が188センチとスケールが大きい選手だったこともあり、伸び伸びやらせる環境に置いた方がいいのでは、と思ったんです」。最速149キロの本格派。プロ野球時代からの知り合いの代理人を通じ、ハワイ大を紹介してもらった。
グローバル化が進む現代において、英語が話せることは必須だ。「僕は若いうちに世界を見た方がいいと思っているんです」。その考えは、高卒プロで14年間ユニホームを着て引退後の経験も重ねる。「僕は野球選手になれなかったとき。また引退後のことを考えてしまうんです。智弁和歌山で甲子園に出場して、英語が話せる。武元にとっては大きな武器になるはず。どういう人材が社会で活躍し組織で必要とされるかが大事なこと」。自信をもって背中を押した。
恩師の期待以上に武元は成長した。進学し1年後に智弁和歌山を訪れた時「What's happening jinさん!」とハグをしてきたという。「ビックリしましたよ。彼の明るい性格がそのまま生かされていた。英語に本気で取り組み、奨学金ももらえるようになった。目的、興味をもって学ぶことの大切さを目の当たりにしました」。日本の野球界に身を置く自身の人生に全く後悔はないが、違う人生があったかもしれない、という思いもある。だからこそ教え子には野球だけでなく、いろいろな学びと人生の選択肢を与えたい。
武元を米国の大学に進学させたことに後悔はない。「自ら必要だと思うことを取りにいく。その環境に置くことは、人として大事なことですから」。選んだ道を正解にする。若者は自分の切り開いた場で、輝く力を持っている。【保坂淑子】