【高校野球】本州まで287キロの八丈、地域のパックアップ受け逆境もモチベーションに/東東京

記念写真を撮る八丈の選手たち(撮影・平山連)

夏の高校野球地方大会が各地で本格化する中で、今回のアマチュア特集面では「離島の球児たち」をテーマに、八丈(東東京)を紹介する。島しょ地区(伊豆諸島・小笠原諸島)の7校ある都立高校の一つで、八丈島では唯一の高校。単独チームとして臨む東東京大会2回戦・大森学園(10日、大田スタジアム)との初戦を前に、彼らがどんな環境で野球を打ち込んでいるのかにスポットを当てる。【取材・構成=平山連】

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月夜が照らす東京・竹芝埠頭(ふとう)から、ボォォ~という低くうなるような汽笛を上げた大型客船が出発した。見送りに来た記者を目掛けて甲板から無数のライトが揺れる中で、八丈の主将・長戸路哲星(ながとろ・てっせい)捕手(3年)がスッーと大きく息を吸い込み「八高野球部~」と声を張り上げた。

彼の号令を受け、周囲から一斉にワァァ~という部員たちの陽気な歓声が上がった。徐々に遠ざかる船をしばらく眺めながら、帰路に着く彼らのことに思いをはせた。船が目指すのは本州から南へ287キロ、伊豆諸島に浮かぶ八丈島。飛行機では50分足らずの行程だが、船となるとおよそ10時間かかる。そこまでして本州へやって来る理由は、同じ高校生たちとの練習試合を行うためだ。毎年5月の大型連休を利用して首都圏の高校に出向き、夏の東東京大会に向けて調整を重ねていた。

本州遠征の練習試合を取材した際に、笹本義範監督(52)から「普段は同じ高校生のチームと練習試合ができないんですよ」と言われてハッとした。JR山手線の内側面積とほぼ同じ大きさの島にある唯一の高校は、対外試合を組むのですら至難の業だ。公式戦を除けば、他校との試合は3年間で20試合にも満たない。だからこそ、1試合1試合が貴重な実戦の場となる。現在島内には左投げ投手がいないため、対戦できるのはまたとない機会だ。滞在中は堀越や横浜隼人、日野などと試合をして、夏の大会本番に向けて経験値を養った。

試合を通して課題をあぶり出すだけにとどまらない。杉浦歩利(あると)投手(3年)は「会場に1カ所しかブルペンがなくて他校の選手と一緒に肩をつくってたら、隣で投げている子のフォークがすごくよく見えて。『フォークめっちゃいいね』と伝えたら、そこから意気投合して投げ方や握りを教わって。感覚がよかったんで試合で投げてみたら、すごくよく決まってくれて」と、他校との部員との交流を通して成長したことをうれしそうに話した。

記者は今年6月上旬に初めて八丈島を訪れた。八丈ナインがどんな環境で普段野球に打ち込んでいるかを知りたいと思って足を運び、滞在2日目には学校のグラウンドで行われた島内の野球経験者で作る「大人チーム」との試合を見た。警察官、消防士、役場職員、土木作業員…。職種や経歴も多種多様だ。忙しい合間を塗って定期的に行われる八丈ナインとの真剣勝負に参加する理由について、メンバーの1人は「環境を言い訳にせず、野球はうまくなれることができるんだということを証明してほしいからね」と力を込めた。地域ぐるみでバックアップしている。

野球ができることは当たり前ではない。昨年10月には台風22号と23号が立て続けに島を襲い、家屋の全壊や大規模半壊、断水や土砂崩れなど甚大な被害をもたらした。部員たちとっても例外ではなく、台風発生後の1カ月は練習ができなかった。普段拠点としていた野球専用の人工芝グラウンド「南原スポーツ公園野球場」が、災害廃棄物の仮置き場となり利用できない状態が続いた。両翼92メートル、中堅116メートルのグラウンド環境で練習できないことももちろん痛いが、長戸路主将はむしろ先のことに重きを置いてきた。

「1カ月間野球ができない環境になった事で、余計に野球がやりたい思いが強くなりました。この逆境に耐えてこそ、次に野球できる時楽しいだろうな~と思っていたので、逆にモチベーションが上がりました」と振り返る。4歳から島で育ってきたからこそ、高校選びは八丈一本と迷いはなかった。「島の特色としてずっと同じメンバーでやれる。バッテリー組んでる(綿貫)瑛斗とは小学校からずっと一緒に野球をやってるし、このメンバーで勝ちたいから高校も八丈にしたというところはあります」。マネジャーを含めた18人で戦う夏の初戦は、2日後に迫る。

▼東京・足立区出身の冨田哲平内野手(2年)は、高校から八丈島に移り住んだ「島留学」生だ。親元を離れてホームステイ先から学校に通うことを選んだ理由は、自然豊かな島の環境や地域と学校が一体となった取り組みに引かれたから。「野球部の格好して街中を歩いていたら『八高、頑張っているね』と声かけてもらうこともよくあるんです」と声を弾ませた。

小中は剣道をしていた。野球を始めたのは高校からだが、ファーストのレギュラーを務めるなど仲間の信頼も厚い。「最初はキャッチボールもベース間で投げるのがやっとでしたけど、みんなと一緒に野球に熱中するうちに段々と距離が遠くなっていくのを感じました。野球があったから、ホームシックとかはなかったですね」と、第2の故郷のように気に入っている。夏の大会に向け「ヒットとか目に見える結果でチームを支えたい」と意気込んだ。

◆八丈 1948年(昭23)に創立。海を活用してダイビングの資格取得を目指すなど、地域の特性を生かした選択授業「海洋文化」を行うなど独自のカリキュラムが充実し、生徒数は96人(女子44人)。野球部は77年創部。甲子園出場はなく、最高成績は東東京大会ベスト16。部員18人(マネジャー含む)。所在地は東京都八丈島八丈町大賀郷3020。町谷光博校長。