<高校野球愛知大会:愛工大名電2-1愛知黎明>◇7月31日◇決勝◇岡崎市民

 愛工大名電が189チームの激戦区を制し、この夏も愛知の頂点に立った。決勝で愛知黎明(弥富から4月に校名変更)に競り勝ち、2年連続11度目の夏の甲子園出場を決めた。5番徳浪優斗内野手(2年)は、3年前に事故で亡くなった同校野球部の兄康介さん(享年17)の思いを背負って優勝に貢献。ついに兄の果たせなかった聖地に立つ時がやってきた。

 何かに押されるように、鋭く飛び込んだ。1点リードの9回の守り。愛工大名電の三塁手、徳浪が三遊間への安打性の打球をダイビングキャッチ。素早く一塁に投げて刺し、勝利への流れを作り上げた。

 「無心というか、体が勝手に反応してくれました」

 集中していた。入学以来、厳しい練習に耐え、ここぞの場面での守りを磨いてきた。だが、それだけではないだろう。きっと天国の兄の“後押し”があったはずだ。

 この伝統あるユニホームを着て甲子園に出場することは亡くなった兄康介さんの夢でもあった。昨年春のセンバツは入学直後でアルプス席での応援。同年夏の甲子園は背番号17でベンチ入りしたが出番なし。今回は主軸を打ち、攻守で大いに貢献した。胸を張ってあの芝生を踏みしめ、黒土の上でプレーを披露できる。

 「兄ちゃんも甲子園に行くのが夢だった。お兄ちゃんの思いも込めてプレーしたいと思います」

 同じユニホームを着て投手として甲子園を目指していた兄は10年2月、恒例の早朝ランニング中に乗用車にはねられ、翌日に亡くなった。倉野光生監督(54)をはじめ、チームは大きなショックに襲われた。兄を慕っていた当時中学1年生だった弟は、それでも当然のように愛工大名電に進んだ。かばんの中にはいつも遺影が入っている。今大会中も試合のたび、愛知・春日井市内のグラウンド横にある石碑にお参りし「パワーをもらってから」試合に臨んでいた。

 天国の兄が甲子園を夢見て取り組んだ投手メニューを受け継ぎ、力をつけたエース左腕の東克樹投手(3年)も大会を通じ抜群の安定感でチームに貢献した。次なる目標は、倉野監督が就任後経験していない夏の甲子園1勝。春は全国制覇、準Vもある同監督は、なぜか夏は未勝利。まずは同校としては88年以来の夏1勝。天国の兄と戦う夏はまだまだこれからが本番だ。【八反誠】