第96回全国高校野球選手権(8月9日開幕、甲子園)に宮城代表として初出場する利府が30日、レター作戦に打って出た。89人の全部員が練習後、寄付金を募るための趣意書と銀行への振込用紙などを1セットにまとめる作業に取り組んだ。後日、封書に収めて約2万5000通をOBや利府町民に郵送する。甲子園で応援してもらう立場として、ナインに感謝の気持ちを植え付ける狙いも込められていた。

 朝9時から6時間の練習に汗を流した利府ナインに、午後5時からの「居残り特訓」が待っていた。寄付金1口3000円以上の趣意書、振込用紙とメモをホチキスでまとめる作業に取り組み、1万セット以上を完成させた。エース奈須野聖也(3年)は「応援してもらえる立場。いいかげんにはできません」と必死に両手を動かした。

 公立校のため、強豪私立校などに比べると寄付金集めには苦労する。09年のセンバツは出場決定から大会まで約2カ月あった。初めての夏の甲子園は宮城を制した21日から開幕までの期間が短い。菊地雅之教頭(55)は「広くお願いしたい」と、約2万5000通をOB、利府町民や地元企業に郵送するという。

 ただ寄付金を募るだけではない。穀田長彦監督(44)は「いろいろな人に協力してもらっている。そのありがたみを分からせるため」と説明した。さらに早く帰宅させることで、選手が地元の人々の祝福を受けるなどして気持ちが浮つかないよう「少し束縛して気を引き締める」(同監督)狙いもあるという。

 午後6時前からは保護者も続々と学校に駆けつけ、作業を手伝った。上野幹太主将(3年)は、宮城大会1試合平均5・29個の犠打を引き合いに出し「コツコツと作業することで、バントも決まるかな」と笑った。

 残りの約1万5000通は学校関係者に任せられるが、選手自ら郵送作業までするのは珍しい。支援への感謝の気持ちは、甲子園での勝利で表すことになる。【久野朗】

 ◆甲子園とお金

 責任教師、監督、ベンチ入り選手の往復交通費や宿泊費は主催者の日本高野連から支給される。そのほかの選手や保護者は原則自費だが、後援会やOB、地元企業から寄付金を募り、学校でチャーターした応援バスなどを無料で利用することがある。費用は甲子園までの距離や、応援人数によって異なるが、1試合で1000万~2000万円かかるとみられる。全国制覇の経験がある強豪私立校では、決勝戦まで1億円を超えたケースもあるとされる。