イチローが、プロで最も多くプレーしたセーフコフィールド。Tモバイルパークに名前が変わっても、グラウンドの天然芝と土に変わらぬ愛を注ぐベテランがいる。

グラウンド整備の責任者ボブ・クリストファーソン氏(64)は整備歴19年。引退したイチローを懐かしみ「いつも優しかった。彼の功績への感謝と、もう見られなくて寂しい気持ち。両方ある」と言った。

同球場で945試合、4224打席に立ったイチロー。それ以上にプレー機会が多かった右翼フィールドは、同氏によれば「日照時間が短く、手入れが一番、難しい」。球場の屋根により、正午頃まで日陰となる。芝のケアに最も必要な太陽光が少ない分、水をやり、細心の注意を払った。

「いいプレーをしてもらいたいから。チームがオフであろうと芝を刈り、水を与える。毎日、ここで仕事だよ」。ホース片手に水をまき、芝刈り機で1インチ(2・54センチ)の長さを常に保つ職人芸。美しい緑が一面に広がる舞台で華麗な守備を連発し「エリア51」と呼ばれた。

グラウンドで会えば、あいさつを交わした。「よく話したよ。内容は覚えてないけど、いつも感謝の気持ちを示してくれた」。幾多のメジャーリーガーを見てきたが、正式契約を結ぶやグラウンドに飛び出し練習する姿に「仕事への姿勢が最も素晴らしい選手」と尊敬していた。シーズン262安打の新記録を達成した際には、小さなイチロー人形にサインをもらった。

ベストな状態を保つという点で、プロの仕事は同じ。ただ「職人レベルは、イチローの方がちょっと上かな」。クスッと笑いつつ、最後まで敬意を示した。【MLB担当=斎藤庸裕】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「ノブ斎藤のfrom U.S.A」)